挿話『クロのしっぽ』

 私のは『シロ』。僭越せんえつながら、鬼の国の王子おうじつとめさせていただいている。

 ある日保護ひほごした、ちいさなおおかみのもののけ・クロ。

 あいくるしいかれといる日常にちじょうは、あまりにしあわせで。

 そのふか闇色やみいろひとみ自分じぶんうつると、たまらなくぞくぞくするようになった。


 ああ、もっとおくまでれたい。くちづけをとし、躰中からだじゅうみだらに私のねつわせたら、この嬌声きょうせいをあげてくれるだろうか?


 無垢むくなクロにそのような無体むたいはたらけるはずもなく、私は毎日まいにちのように、が国の官僚かんりょうであり、幼馴染おさななじみでもあるクレナイに、クロへのあいかたり、さけぶ。それでなんとかいろいろおさめている。本当ほんとうにいろいろ、なんとかおさめている。


 可愛かわい可愛かわいいクロと夕刻ゆうこくまでえないくやしみにひたりながらあゆんでいると、いつもの執務室しつむしつえてきた。



✿✿✿✿✿



「クレナイ、いてくれ!!」

「……今度こんどはどんないぬっころエピソードなんだ」


 私のたかぶった様子ようすから、クロの話題わだいであることを瞬時しゅんじさっするクレナイ。

 げんなりしつつも、いつも最後さいごまでいてくれるから、本当ほんとうにいいともだとおもう。


今回こんかいのは、史上最強しじょうさいきょうすさまじいかもしれない……!!」


 私は、こと顛末てんまつかたりはじめた。



✿✿✿✿✿



 夕餉ゆうげえ、ふたりきりでごすおだやかな至福しふくのとき。

 私はくまでさりげなくをよそおいながら、クロへりだした。


「クロ、このところ、いままで以上いじょう毛並けなみがつややかじゃないですか?」


 いつも(バレない範囲はんいで)めまわすようにている私に、わからないわけがない。クロのみみやしっぽは、もともとからす羽色ばいろごとうつくしかったが、近頃ちかごろはより、さらさらふわふわつやつやしていたのだ。


「えへへ、クレナイ様が最近さいきん、ぼくにせっけんの開発かいはつにはまってるんだって!」

「へぇー、クレナイはそういう調合ちょうごう、すきですものね~……」

 いい仕事しごとにもほどがありすぎるだろ、クレナイ!! あとで好物こうぶつのよもぎもち奉納ほうのうしておこう……。



✿✿✿✿✿



「えっ、よもぎもちどこ?」


 普段ふだんめったにはなしさえぎらないクレナイが、辛抱しんぼうたまらずといった様子ようすりだしてくる。

 私しからないことだが、かれだいのよもぎもちずきで、そのおもめのあいはもはや、ストーカーとってもしつかえのない代物しろものだった。


いま最高級さいこうきゅうのをおちゅうだ」

 感謝かんしゃきわみ!! とあらためてれいべ、(かれとしては最大級さいだいきゅうに)かがやかせるクレナイをなんとかしとどめながら、私は口上こうじょう再開さいかいさせる。


本題ほんだいはこのさきなんだ!! 私は、どうしてもそのふさふさなしっぽをでてみたい衝動しょうどうられてしまった……」



✿✿✿✿✿



 私は若干じゃっかんよこしま気持きもちをクロにさとられないよう、極力きょくりょくにこやかに、かつ、すこしだけ遠慮えんりょがちにおねがいしてみる。


「……あのクロ。迷惑めいわくじゃなければ、しっぽにれてみてもいいでしょうか?」

「ほんと? さわってさわって!!」


 えっ、可愛かわいい。最&高さいアンドこう……。


「で、では、ゆきますね」

 しっぽの表面ひょうめんをゆっくりでる。とってもうれしそうにしっぽをるクロの様子ようすを見ながら、すこしずつつよめに。


「シロ様になでてもらうの、とっても気持きもちいい!」


 クロは本当ほんとう心地ここちよいのだろう、どんどんしっぽのりがつよくなる。

 私はふと、その根元ねもとがいってしまった。


(……しっぽのつけは、どういう手触てざわりなのだろう?)


 私が何気なにげなく、その場所ばしょれると。


「ひゃぅんっ!!」


 クロは、びくん、とねてあとずさり、そのちいさなからだにしっぽをきつけ、きゅうっとそれをかかえた。かおで、かすかにふるえてしまっている。


「クっ、クロ!? 大丈夫だいじょうぶですか、いたかったですか!!?」

「っ、ち、ちがうの、シロ様……」


 その獣耳けものみみせ、ねつっぽくうるんだひとみらしながら、けた。

「あの、しっぽのつけは……えと、『性感帯せいかんたい』、なの……」


「――……」



✿✿✿✿✿



「……ということがあって」

「……」

「とりあえず……0.01秒後びょうごには土下座どげざをしていた……」

 まずい、あのときの純情じゅんじょう劣情れつじょうよみがえって……いろいろなカタチで再爆裂さいばくれつしそうになってきた。

「『ひゃぅんっ!!♡』って、『ひゃぅんっ!!♡』って……! それだけでご飯三杯はんさんばいはイケてしまうだろうとうとい……ッ!!」

「……一国いっこく王子おうじが0.01びょう土下座どげざかますのはどうなの? いや本人ほんにん自由じゆうだが……」


 いつもどおり、天使クロ出逢であえたよろこびにむせぶ私と、これ以上いじょうないくらいきにくクレナイ。



 今日きょう平和へいわで。非常ひじょうに、しあわせである。




【終】

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