第三章 闘乱の果てに芽生える絆その七

 大雷が引き起こされた原因の地。そして標的であるブラッドが何らかの目的ですでに到着している可能性のある離島に、隊長アルマを除く四人はこうして勢揃いした。

 僅か四人とは言え、全員が魔機を凌ぐ一騎当千の猛者達で構成されている革命王の手のメンバーである。

 彼らは今、大陸で最大規模の信仰圏を誇っている地母神の聖印がそのくすんだ大理石の壁に彫り込まれた、高台に聳え立つ大聖堂に向かって走っていた。

 次第に上り坂になっていく道を駆け上がり、襲い掛かってくる魔機達をその度に捻り潰しながら、息一つ切らした様子はない。


「お前ら、誰が一番最初にあの大聖堂に到着するか競争なっ! 負けた奴は……そうだな。勝った奴に飯を奢るんだ、血が滴るとびきり美味しいステーキをよっ!」


「……くだらん! 却下だ」


「同感だ。足を引っ張り合う必要はないと言ったのはお前だろう、レイル。ここから先はお遊びはなしだ。全身全霊でブラッドの首を取って、目的を果たす!」


「あはははっ、私ならその賭けに乗ってもいいんだけど、対象がただのステーキじゃ張り合い甲斐がないからねー。私もやめとくよ、レイル君!」


「だぁぁああっ……分かったよ、お前らぁ!!」


 三人に自分の提案を拒否されて、膨れっ面になる、レイル。

 しかしそんな彼も、離島の中央に向かうごとに簡単には進ませてはくれない廃墟内の構造に対し、道の正しい選択に集中せざるを得なくなった。

 進む上で問題になったのは、まるで迷路のように伸びている無数の通路である。

 右へと弓形に曲がり、左にくねって前後に湾曲し、それぞれが複雑に入り組んでいるのだ。中央部に向かう者の侵入を拒もうと言う、意思を感じられた。

 しかもこの廃墟の構造は、つい最近そのように作り直された形跡がある。

 利便性がなく建物の並びが不自然で、ここで人が暮らすことを考えられていない、外敵に備えることを最優先にしたかのような。

 何よりイザクがディルドから貰った地図とは、明らかに道順が違っているのだ。


「これも魔機の仕業か。廃墟の街並みを迷路に作り変えるとは、ずいぶん高度なことをやってのけるじゃないか。だが、こんなことをするからには、俺達が向かう先に奴らにとって重要な何かがあるはずだ」


 イザクが吐き捨てる。その目は、より強い意志を宿したようだ。

 ここでは役には立たないと悟った地図をバッグの中へと仕舞い、両手にククリ刀を構えて、地道に進むことを決断。狭い路地などから急に現れては襲い掛かって来る魔機達を、いずれも一閃の元に単眼部を斬り裂いて破壊していった。

 一方で、レイルは皆が手をこまねいている迷宮に、独自の攻略法で挑もうと決意していた。大剣を背中に戻すと、何と彼は建物の壁をよじ登り始めたのだ。


「いつも思ってたぜぇ。迷路なんて壁を上って乗り越えていけば、すぐに攻略出来るじゃんってよ」


 口にした通り、そのまま屋根の上まで上がり切ったレイル。彼はそこから振り返って、三人を見下ろしながら手を振って叫んだ。


「大丈夫だ、こっからでも進めるぜ! 建物の屋根を伝って向かった方が、最短ルートで行ける! だから早くお前らも上がって来いよっ!」


 イザク、リゼ、ダールは少しの間、呆気に取られた顔で彼を見上げていた。

 だが、やがてイザクがレイルのやり方に倣って壁をよじ登り始めると、他の二人もすぐに彼の後に続いていく。

 そして屋根に上り切ったイザクがレイルの方を向き、微笑みかけた。


「まったく……考えたな、レイル。型破りな発想だったが、確かにこれが一番の近道だったかもしれない。よし、ではこのまま屋根伝いに進むとしよう」


「だそうだぜ。お前らも遅れずについて来いよ、リゼ、ダール」


 得意げな顔のレイルが、壁の突起に指を引っ掛けてこちらに上って来ているリゼとダールを見下ろしながら、声をかける。

 ややあってダールが顔を出し、今度はリゼが屋根の上に顔を出すと、彼女はレイルに尊敬の眼差しを向けて言った。


「レイル君、賢いじゃない。こんな方法、私じゃ思いつかなかったよー」


「へっ、見直したかよ? このくらいなら、お安い御用だってんだ。それじゃあ、全員上がり終わったことだし、最短の安全ルートを進もうぜ、お前ら」


 リゼに褒められて、レイルが満面の笑みを浮かべる。しかしただ一人だけダールだけは戦斧を手に構えて、敵からの攻撃に備えていた。


「……いや、生憎とそう簡単にはいかなそうだ。見ろ、向こうを」


 ダールが人差し指を指す向こうにあったのは、屋根の上をこちらを目指してかなりの速度で移動してきている、魔機達の一群。

 地上だけではなく、ここもまた戦場と言うことだろう。この街にいる限り、どこであっても戦闘自体は避けられないようだった。

 しかし彼らは、全員が戦いのスペシャリストなのだ。探索に関しては専門外で苦労させられたが、こと戦闘に関しては誰一人として臆す者などいない。

 全員が余裕綽々な様子で大胆不敵な笑みを浮かべると、一斉に掛け声を上げながら魔機達の方へと走り出していった。

 中でも一番槍として真っ先に敵に斬り込んでいったのは、大剣を両手に握り締めたレイルである。次の瞬間には、彼のキバオレ流剣技が魔機一体の肩口へと斬り払われ、軽々と装甲を破壊。そこから更に剣身に纏った衝撃波を四方に放ち、周辺にいた魔機数体をも吹き飛ばした。

 他の三人も先頭の彼に続き、ククリ刀や鉄拳、戦斧を用いて魔機達を圧倒。次々と撃破しながら、目的地まで一直線に道を駆け抜けていく。


「うおっしゃあっ! いけるぜぇ! この調子で一気に突っ切って、大聖堂を目指そうじゃねぇか! 俺について来い、お前らぁ!」


 リーダー気取りで先陣を切りながら、仲間達に向かってそう叫ぶ、レイル。

 しかし他の三人の内、ダールは反応すらしてくれない。イザクもやや呆れ顔を見せており、唯一、リゼだけが声援を送ってくれていた。

 そんな調子で建物の屋根屋根を飛んで走って進みながら、いよいよ離島の中央部に威厳を示して立つ大聖堂が近づいてくる。ここに来るまで何体の魔機を倒したかもう数えることもやめてしまっていたが、さすがの彼らも疲労の色が見え隠れしていた。

 しかも目指す場所までは後一歩に見えるが、まだ難関が立ち塞がっているのだ。

 それでもこれが最後の試練だとばかりに、レイル達は高台の麓から頂を見上げる。

 大聖堂まで向かうための、最後のルート。それは高台の天辺まで、気が遠くなりそうな程に一本道で長く続く、幅広の階段だった。

 だが、ここまで来れば後は道に迷う心配はなく、登り切るだけの体力勝負である。

 屋根から順々に飛び降りたレイル達は、残った体力と気力を振り絞って、一気に階段を数段飛ばしで駆け上がっていく。しかしそれでも大聖堂は、まだ遥か遠くだ。


「ぜぇっ……ぜぇ、しんどっ! 仕方ねぇ、凶戦士の瞳に頼るとすっかよ!」


 レイルが漏らしたその言葉を聞くなり、イザクが釘を刺すように言った。


「おい、レイル。あまり軽々と呪物の力に頼り過ぎるなと、前にも言っただろう。そいつは諸刃の剣だ。お前の精神を徐々にだが、確実に侵食していく。使えば使う程にな」


「へっ、心配ねぇよ。俺はこいつを御してみせっからさ!」


 しかしレイルはあくまで自信過剰気味で、イザクの忠告を聞き入れようとしない。

 そんな彼の腕を、真剣な顔をしたイザクが背後から勢いよく掴んで走るのを止めさせると、自分の方に振り返らせた。


「真面目に聞け、レイル。これは脅しでも何でもない。呪物を使い過ぎた副作用で、廃人同然になった連中を俺は何人も見てきているんだ。使うなとは言わないが、使い所は考えろ。いいな?」


「……ちっ、分かったよ。お前がそこまで言うんじゃ、無下には出来ねぇしなぁ。じゃあ、戦闘中……ここぞと言う時だけ使うぜ。それでいいだろ、イザク?」


「分かってくれたのなら、結構だ」


 それを聞いて、一先ずは納得した顔を見せる、イザク。だが、彼が掴んでいたレイルの腕を離した、その時のこと。レイルの右目に埋め込まれた凶戦士の瞳が、淡く赤い光を放つのをイザクは見逃さなかった。そして驚きの顔で、彼の顔を見つめる。


(……レイルっ、呪物の後遺症の初期段階だぞ。もうこの段階に入っているのか。馬鹿がっ……俺達に追いつきたいあまり、力を過剰に使い過ぎだ。このままだと支配されてしまうぞ、呪物の効力に)


 自分の顔を穴が開くほど見ているイザクに、レイルは怪訝な顔をして「どうしたんだよ、イザク?」と尋ねてくる。しかしイザクは言葉を濁すと、最終的には「何でもない、今した約束を忘れるなよ」とだけ答えて、再び階段を上り出した。

 立ち止まってそんなやり取りをしていた彼らを通り越して、ダールとリゼはずっと先まで進んでいっており、レイルとイザクはその後を急いで追い始める。

 だが、レイルは相変わらず明るく振る舞い、イザクの心配など露知らずな様子だ。

 イザクはレイルがこうなった責任を感じていたが、呪物とあそこまで一体化している以上はもう取り外すことは出来ない。レイルの心は、いずれ壊れてしまうだろう。

 階段を上っている途中、彼はずっとそのことを憂慮していた。

 だが、やがて階段上に大きな力で壊された魔機達の残骸がいくつも散らばっているのが目に入ってくると、その思考を中断せざるを得なかった。


「おい、このぶっ壊れた魔機達をやったのって……もしかしなくてもよ。俺達は偶然にも、あいつらと同じ場所を目指してたってことか?」


「らしいな。あの大聖堂は、この島のどこにいても嫌でも目に入る。俺達と奴らは図らずも同じことを考えていたか……もしくは、あの場所にこそブラッド達が欲する何かがあるのかもしれない」


「……ふん、奴らが先行して魔機達を倒してくれているなら、手間が省ける」


「あのブラッドが欲しがるって、あそこにはよっぽど凄いお宝があるってことなのかなー。なら、俄然やる気が出て来ちゃったじゃない」


「期待すんなよ、リゼ。イザクの奴が、どうせ呪物だろって言ってたぜ」


 これまでとは打って変わって、進めど進めど襲ってくる魔機達は見当たらない。

 その代わり、彼らには予感があった。感情なく行動する魔機とは違い、強い悪意と殺意を併せ持った、生身の敵との戦いの予感が。

 足元に転がる魔機達の破片を踏み越えながら、レイル達は階段を駆け上がる。

 そんな並外れた身体能力を持つ彼らでさえ、やがて肩で息をし始めた頃。

 ようやく大聖堂を正面に捉える、高台の天辺まで辿り着いた。

 が、そこでもここまでの道中と同様、手足が引き千切れていたり、くず鉄となった魔機達の残骸がそこかしこに転がっていた。それも大聖堂の正面口に繋がるように。


「間違いねぇみたいだな。ブラッド達は、あの中にいるぜ。あいつらが発した殺気の残り香が、入り口に向かって続いてやがるからよ。行こうぜ」


 そう言い放つなり、大聖堂に向かって歩き出す、レイル。

 しかしそんな彼を、イザクが片手で制止した。


「そこで止まれ、レイル。あからさまに残された殺気に惑わされるな。これは罠だ、すでに奴らは俺達に仕掛けてきている! 全員、散れっ!」


 イザクの叫びに反応するようにリゼとダールが地面を蹴って左右に飛び、イザクはレイルの肩を掴んで、一緒に後方へと跳躍する。

 それと同時に今までいた場所の地面が陥没し、破片が四方に飛び散った。

 レイルは驚きの顔を浮かべながら、目を凝らす。すると、ほとんど風景に溶け込んでいる透明な何者かの姿を微かに捉えた。辛うじてそいつが人間の輪郭をしているのが分かったが、注意を払わなければ存在に気付けなかっただろう。


「透明人間っ!? まさかこれが呪物ってやつかよ!」


 己の凶戦士の瞳以外の呪物を初めて目の当たりにしたレイルは、警戒心から即座に右目に宿った義眼の力を発動させる。先ほどイザクに使用を控えるように言われたばかりだが、焦っていたためにそれどころではなかったのだ。

 そして今にも大剣を手にして敵に飛びかかろうとしていた彼を、イザクは再び肩を掴んで止めた。


「お前は下がって見ていろ、レイル。それ以上、呪物の力を頼るな」


「だってよぉ。俺だって革命王の手の一員なんだぜ。ちゃんと活躍しねぇと、お前らの足手まといになるなんてまっぴらだ」


「いいから、そこにいろ。お前は俺達の切り札だ。ブラッドは俺達全員が力を合わせなければ、恐らく勝てない。いざと言う時に、お前がいてくれないと困るんだ。それとリゼ、ダール、お前らが出るまでもない。ここは俺に任せてくれ」


 それはお世辞ではなく、イザクの本心からの言葉だった。

 ブラッドの力を実際に知っている彼だからこそ、レイルの力を当てにし、こんな所で失う訳にはいかなかったのだ。それを聞いたレイルは、渋々納得したのか、凶戦士の瞳の力を解除した。ダールも無言のまま頷き、リゼの方もつまらなそうに「じゃあ、早く終わらせて頂戴ねー」とぼやいて、後ろに下がる。

 それを確認し終えてから敵の前へと進み出ていく、イザク。その表情を見れば、目の前の敵に並々ならない嫌悪を抱いているのは間違いなかった。


「さて、ブラッドがいるのは大聖堂のどこだ? 良い返事が返ってくるのは期待してないが、答える気がないなら……」


 だが、イザクが言い終える前に透明の敵は咆吼し、手にした大太刀に力を込め、問答無用で飛びかかってきた。

 その大太刀はイザクに当たるスレスレで空を切り、身軽な動作で攻撃を躱してのけたイザクは跳躍。中空でククリ刀を連続で投げ放つ。

 透明の敵はそれを大太刀で二本目までは叩き落すが、三本目と四本目を避けることは叶わなかった。左目と肩に深く突き刺さり、何もない空間から鮮血が散った。

 ややあって、透明だった敵が徐々に姿を現し始める。

 そいつは口の端々から泡を飛ばし、血走った眼光でイザクを睨み付けていた。


「やはり……か、呪物の末期症状。そうなったからには、もう理性はほとんど残っていないだろう。お前が使っていた呪物は、その首に下げた首飾りか?」


 その問いに答えることなく、ぶつぶつと独り言を呟いている男は、やつれてはいたが、まだ若かった。恐らく十代後半、レイルと同年代くらいだろう。

 彼の身に纏った軽鎧の胸当てには、ブラッド傭兵団の一員であることを示す、ウロボロスの紋章が描かれている。

 イザクはそんな彼に哀れみを込めた目を向けると、つかつかと歩み寄って首に下げられた首飾りを奪い取った。


「俺の目的は、すべての呪物を破壊することなんでな。こいつは頂いておくぞ。そして酷なことだが、呪物と切り離されてしまったお前はもう助かるまい。ならば最後は楽に逝かせてやるのが、せめてもの情けか」


 イザクに呪物を奪われた若者は、急に喉を掻きむしりながら苦しみ始める。

 爪が喉の皮膚に食い込み、血が地面に零れ落ちて、指先が真っ赤に染まっていく。

 その一部始終を目を離さず見ていたイザクは、ククリ刀を首元に突き付けると、「悪く思うなよ……」と一声かけて、しばしの間を置き……。

 やがてククリ刀を勢いよく振り上げ、一閃。彼の頭部を胴体から斬り飛ばした。

 コロコロと地面の上を転がっていくそんな彼の頭部を、レイルは自分の右の義眼を手で押さえながら青ざめた顔で見ていた。

 呪物を使い過ぎた者の成れの果ての姿。まるで将来の自分の末路を見せられたと思ったのだろう。


「どういうこと……なんだよ、イザク。首飾りを取られた途端、あいつは苦しみ出したように見えたぜ」


「見た通りだ。呪物を多用していれば、いずれ肉体と呪物は強く結びつき一体化してしまう。そしてそいつを力ずくで切り離せば、死ぬ。だから言ったろ、レイル。呪物をあまり頼り過ぎるなと。今からでも遅くない。使用を控えていれば、お前は彼のようにはならない」


 俯き加減でイザクの言葉を聞いていたレイルは、そこでゆっくりと顔を上げる。

 だが、落ち込んでいるのかと思いきや、その時にはすでに彼は居直っていた。


「へっ……まあ、こんな得体の知れない力だもんよ。絶対に何かリスクはあると思ってたぜ。けど、お前だって俺にこの力があるから、対ブラッドの切り札だって期待してくれたんだろ? だったらよ、俺は自分やお前らに危険が迫ったら、躊躇なく使うぜ。なぁに、心配はいらねぇよ。今はブラッドを倒して、この街から脱出するのが先決だ。出し惜しみして、ここで死んじまったら元も子もねぇもんな」


「……そうか、お前が決めたことなら反対はしない。だが、無理はするなよ。俺達だって、お前に守ってもらわなくちゃならない程、弱くはないんだからな」


「おうよ、肝に銘じておくぜ」


 強がっているのかもしれないが、眩い笑顔を浮かべたレイルは、大聖堂の入り口に向かって走り出す。そして正門前で三人に振り返って手を振り、付近に敵の気配がないことを知らせた。

 そんなレイルに真っ先にリゼが駆け寄ると、彼の両肩を掴んで笑いかける。


「ねえ、レイル君。君も大変みたいだけど、私達の力を信じてくれていいんだよ? 君がその右目の力に頼らなくてもいいように、私達だってサポートするからさー。廃人になった君なんて、見たくないんだからね」


「お、おう。ありがとうな、リゼ」


 そう言ってリゼは大聖堂の中へと消えていき、続いて今度はダールが彼の隣りを通り過ぎる際に、一言だけを残していく。


「……お前は弱いが、性格は悪くない。必ず生き残れ」


 ダールもレイルを、精一杯励まそうとしたのかもしれない。

 今の彼は出会った当初のような、迸る殺気は鳴りを潜めていた。そんな彼も大聖堂内に姿を消していくと、最後はイザクがレイルの目の前で立ち止まる。

 そして彼に先ほどの首飾りを見せて、そのまま力一杯地面に叩きつけた。

 首飾りに嵌め込まれた水晶が派手な音を響かせて砕け散り、残骸から黒い煙が立ち昇る。


「いずれはすべての呪物をこうしてやる予定だ……と思っていたんだがな。お前の右目だけは大目に見てやることにした。さあ、行くぞ、レイル」


「へっ、お前ら無法者の集まりだって言っておいて、皆、根は良い奴じゃねぇか。ああ、俺だって別に好き好んで命を捨てたい訳じゃねぇし、生き残ってやるつもりさ」


 レイルとイザクは顔を合わせて笑い合うと、二人は揃って大聖堂の入り口を潜る。

 すると、建物内ではリゼとダールが今度は単独行動を取ることなく、二人が入ってくるのを待ってくれていた。

 今の彼らの間には街にやって来た当初のように、互いが互いの利益を追い求めて小競り合いを起こしていた、殺伐とした空気は最早ない。

 この関係は戦場だからこそ、培われた絆だったのか。我が強く、まとまりのなかった彼らに、仲間意識が芽生え始めた何よりの証拠であった。

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