第三章 闘乱の果てに芽生える絆その六

 レイルが咆吼しながら、大剣を振るう。イザクもまた目を煌めかせながら、両手のククリ刀を連続で一閃させる。両者共に、その口元は歓喜に歪んでいた。

 離島へと続く橋へと近づいてきていた二人は、進みながら戦っていたのだ。

 二人の前方に立ち塞がるように対峙しているのは、数十体の魔機達。

 彼らの視線の向こうには、すでに離島が見えてきており、確実に目的地点に近づいてこれていることが二人を喜ばせている要因だった。


「やっぱり俺達が一番乗りだぜぇ! ここで派手に暴れて、魔機達の残骸を積んでおけば、アルマさん達もきっと気付いて追って来てくれるはずだぜ!」


「ああ、どうやら本当にメンバーの中では、俺達が一番最初らしいなっ!」


 魔機達を大剣で粉砕しつつ、レイルは離島の方向を改めて眺めやる。

 魔界。そう呼称するのが、最も相応しい表現かもしれないと、レイルは思った。

 島全体を覆わんばかりに赤黒い瘴気が渦巻いており、とても人が住める場所ではない危険な雰囲気を漂わせていたからだ。

 だからと言って彼とイザクは、そんな場所に向かうことに躊躇も恐れも微塵も抱きはしなかった。任務を確実に成功させたい、明確な理由があったためである。

 そして自分達よりも先んじてブラッド一味はもう到着していることを、足元に所々転がっている蛇の刻印が刻まれた甲冑姿の死体達が物語っていた。

 その中の死体の一つを屈んで確認しながら、イザクは呟く。


「やはり間違いないな。『死と再生』『不老不死』を象徴する、ウロボロスの紋章。あの男が配下の鎧や身体のどこかに、必ず入れさせている刻印だ。そうか、奴はすでに島に到着しているということかっ……」


 イザクの目が怒りを帯びるが、すぐに頭を振って平常心を取り戻した。

 先ほどのレイルの言葉が、彼の心に響いていたからである。

 辺りの戦いは、二人の優勢で進んでいた。すでに八十を超える魔機が破壊されて残骸が散らばっており、数的不利など物ともしない凄まじい勢いの戦いだった。

 そしてついに橋上に辿り着いた二人は、魔機達の群れに躊躇なく突撃していく。

 レイルが「鬼人斬!!」と技名を叫びながら跳躍し、着地と同時にレイルは橋上にいた魔機に大剣を叩き付ける。

 頭部が砕かれ、四方に放たれた衝撃波が周りの魔機数体をも吹き飛ばす。

 続けてイザクも、上空に跳躍。眼下に向けて投げ放ったククリ刀がシャワーの如く降り注ぎ、真上から魔機達の単眼部を鋭く射抜いていった。

 二人は破壊された魔機を踏み越えながら、そのまま前方へと走っていく。

 その真っ只中で、イザクは魔機を見据えながら叫んだ。


「アルマの推測では、こいつら魔機は呪物の一種かもしれないそうだっ。どこかに司令塔があり、そこからこいつらの核に命令を送っているのだとな!」


「まじかよっ、初耳だぜ? じゃあ、もしそうならこいつらもお前の仇みたいなもんじゃねぇか!」


 それを聞いたレイルが、前方の魔機をきっと睨み付ける。や否や、足元の地面を蹴り、真っ向から襲い掛かってくる魔機達の群れに飛び込む。

 そこから横一文字に大剣を払い、一気に振り抜いた。


「さっさと道を開けやがれっ! キバオレ流剣技『光速牙真一文字』っ!!」


 レイルの大剣が光り輝いた。そこから横幅の広い黄金の衝撃波が走って魔機の群れの中に通り道を切り開いていく。

 ――真っ向から、全速力で駆け抜ける。それがレイルが考えた作戦だった。

 レイルはイザクに目配せをすると、イザクもその意をすぐに理解する。二人は余計な戦闘を避け、一直線に離島へと走り抜けていった。

 そしていよいよ二人は橋を渡り切り、離島へと到着。そこで一度、足を止めた。


「いよっし! 抜けたぞ!!」


「ああ、いよいよ俺達は辿り着けた訳だ。ここにブラッド一味と、そして恐らく大雷を引き起こした何らかの原因があるはずだ。ここからは、より用心しなくてはな」


 レイルとイザクは足を踏み入れたばかりの島内を、ぐるりと見回す。

 外周を防波堤に囲まれた離島は中心に石造りの建物が立ち並んでいるが、人気はなく街全体が廃墟と化しているようだった。

 そして一際目に付くのが、周辺よりも高台になっている離島の中央部。そこには外壁がくすんだ灰色をした大きな大聖堂が聳え立っているのが、ここからでも見える。

 遠目から確認しても、赤黒い瘴気が漂う異質な雰囲気を漂わせていたこの離島。

 間近で見ると、その景色の禍々しさが一層、際立って感じられた。


「つい最近、廃墟になった訳じゃない。どうやらこの場所は、ずいぶん前から打ち捨てられた島だったようだな」


「どうでもいいぜ、そんなことはよ。さっさと進もうぜ。そこまで大きい島じゃないし、前進していけばいずれブラッド達と遭遇出来るだろうしな」


 島の様相を見ても臆さず、むしろ戦意を漲らせる、レイル。しかし魔機達が出現した島だけあって、中はこれまで以上に奴らの巣窟となっている。

 彼らの前に立ち塞がった数は、百体、いや、それよりも遥かに多い。


「へっ、今度はまたずいぶんと大勢で来やがったな。俺達を盛大に歓迎してくれて、感謝の言葉もねぇくらいだ」


 多数の魔機の群れが島の奥から足音を響かせて迫ってきていると言うのに、レイルもイザクも腰が引けることはなかった。レイルは大剣の切っ先を地面につけながら嬉しそうに笑うと、そこから前傾姿勢で構える。

 戦えば戦う程に、右目に埋め込まれた凶戦士の瞳の力が効力を増してきているのが、彼自身にも感じ取れていた。

 それを実戦で早く試してみたいと言う、意欲に駆られていたのだ。

「いっくぜぇっ! キバオレ流剣技……っ!!」と、レイルが技を放つ際の前口上を叫びながら、大剣を右肩の後ろに回す。その体勢から、ぎりぎりと弓の弦を引くが如く溜めのモーションを取った。

 しばし後に、前方へと前回りに高速回転しながら、特攻。

 猛烈な勢いの突進は、襲い来る魔機達の身体を連続で斬りまくっていった。


「だらぁぁああっ!! 名付けて『旋風爆獣斬』だぜっ!! 開けろ、開けろ! 道をよぉっ!!」


 大剣の剣身だけではなく、レイルの全身が衝撃波を纏っている。

 触れる側から魔機達の身体の各所が千切れ飛んで、勢いが衰えることなく離島の中心部の方向に転がり込んでいく。

 そのようにして出来上がった道を、イザクが走りながら追跡。

 やがて二人は静寂に包まれた、魔機以外には人っ子一人見当たらない市街地跡に足を踏み入れていった。

 とうの昔に廃墟となった街並みは、坂や段差が多く、道の狭い所も多い。

 また人の手が入ってないにも関わらず、用水路は現在もきちんと流れている。

 中でも特に存在感を示しているのが、やはり離島の中心。高台に聳え立ち、歴史を感じさせる、あの大聖堂だろう。


「あの大聖堂まで行けば、この島全体を見渡せるかもなぁ。ブラッドの奴がどこにいるか見つけられるかもしれねぇし、まずはあそこに行ってみようぜ、イザク」


「そうだな、そうしたい所だが……」


 イザクは重い表情をしてあまり気乗りしないのかと思ったが、違った。

 彼が空を見上げたのを見て、レイルもつられて頭上を仰ぎ見る。そして気付いた。

 頭部の正面に金属の『人の顔』と分かる部位が張り付いた、巨大な化け物がこちらに向かって落下してくるのを。

 黒塗りの鋼で出来た全身には赤い光の筋が走り、頭部以外には太く長い四肢も備えている。イザクはいち早く、上空から降下してくる敵の存在を感じ取っていたのだ。

 レイルは「やべぇっ!」と叫ぶと共に、横っ飛びに敵の空からの着地を躱した。

 イザクも後方へと飛んで、回避行動を取る。


「ウォオオオオオォォムッ!!」


 化け物が両足から降り立つと、同時。

 落下の衝撃で地面が砕かれ、奴は獣の咆哮を思わせる機械音を発した。

 一目で分かる、これまでの魔機とは異なる出で立ち。その巨体を見ただけで、今まで倒してきた個体とは比べ物にならない戦闘力を持つのは明らかだ。

 即座にレイルが大剣を構え、敵を正面から見据えた。イザクも両手にククリ刀十数本の柄を握り締め、臨戦態勢に入っている。

 しかしこれまでのように簡単な戦いにはならないことを悟ったのか、二人の表情からは余裕は感じられない。

 そんな彼らを鉄化面の化け物は一瞥すると、口元を歪ませた。


「こいつっ、笑ってんのか? ずいぶん舐められたもんだぜ。なあ、イザク?」


「ああ、機械の化け物とは言え、あの仮面みたいな顔。まるで感情があるかのようだ。用心しろ、レイル。この個体が、どれだけ強いのか分からないからなっ」


 鉄化面は両腕を振り上げ、あらん限りの絶叫を上げる。

 それが死闘開幕の合図となった。レイルとイザクはほぼ同時に地を蹴って、鉄化面へと駆け出していく。

 対する鉄化面も巨体に物を言わせて突進してくるが、レイルは躊躇することなく横に飛んで隣に回り込む。そこから大剣で脇腹を斬り裂く……つもりだった。

 だが、実際には力負けした斬撃は弾かれ、傷一つ負わせることも叶わない。


「ちぃっ! 硬ぇっ!」


 一瞬とは言え怯んだレイルに対し、鉄化面は左腕を振り上げる。

 そこからレイルの頭上目掛けて、振り下ろす。

 瞬時に凶戦士の瞳の力を全開にし、首の皮一枚で攻撃を避けた、レイル。彼はその拳が地面に深々と叩きつけられ、石の破片が自身の顔を掠めていくのを間近で見た。


「なんて馬鹿力だよ! まともに喰らったら、痛いじゃ済まねぇ……けど! 要は当たらなきゃいいんだろ!?」


 レイルは、すかさず体勢を立て直す。そして剣身に衝撃波を纏わせた大剣を、鉄化面の左腕に向けて一気に振り抜いた。

 当然、いつものように「鬼人斬っ!」と技名を叫ぶのを怠らない。

 そこから間を置かず、レイルの背後からイザクが投げ放ったククリ刀が矢継ぎ早に投げ放たれた。次々に頭、胴対、両腕、両足へと直撃していく。

 だが、攻撃のすべてが弾かれた。更にそればかりか鉄化面の全身から四方に放たれた赤いオーラにより、レイルとイザクは吹き飛び、身体を背面に仰け反らせる。


「すっげぇ威圧感出しやがって、この化け物! しかも俺達の攻撃をまともに受けて、少し亀裂が入っただけかよ! どうすりゃこいつの装甲を破壊出来るんだっ!」


 レイル達がこの街にやって来てから、今まで倒せなかった敵などいなかった。

 そんな彼らにとって、初めて陥った目に見えての劣勢。正直、今まで魔機を舐めていたと、二人は痛感せざるを得なかった。レイルはすぐに相手が未知の敵だと失念していたことを反省し、改めて化け物と向かい合う。

 だが、一方でこの形勢不利の状況に誰よりも苛立っていたのは、イザクであった。

 唇を噛み締めて、激情しているのは誰の目からも明らかである。


「あと少しだと言うのにな。なぜこうまで邪魔が入るっ!」


「おい、イザク。ぶん殴られたいか? さっき言ったばかりだろ? 冷静に戻らねぇと、力づくで正気に戻してやるってよ」


「ああ、分かっている! 分かっているさ……だが、こんな木偶の坊ごときに手古摺ってるようじゃ、まだ俺はブラッドには及ばない。それを思い知らされたのが、悔しかっただけだ」


 イザクは肩を震わせて地団太を踏むと、即座に内包する怒りを鎮めた。

 それが彼が昂ぶった気持ちを静める、ルーティーンだったのかもしれない。

 今は戦闘中。敵はこちらが立ち直るのを、悠長に待ってくれはしないのだから。

 イザクはククリ刀を左右の手に一本ずつ持ち、すでに次の行動を再開している鉄化面に対応すべく、ゆらりと動いた。

 その顔を見れば、勝機がまったくない訳ではないのだろう。

 平静と余裕を取り戻したイザクを見て、レイルはニヤリと笑う。そしてさっきと同じく大剣を右肩の後ろに回し、引き絞るように溜めのモーションを取る。


「喰らいなぁ、キバオレ流剣技っ……!」


 レイルがキバオレの奥義の一つを繰り出そうとした、まさにその時。

 彼の背後から、聞き覚えのある甲高い声が響いた。


「レイル君っ、先を越されちゃったみたいだねー! だけど、勝負はまだまだこれからっ! 最後に勝つのは、この私だよっ!」


 レイルが思わず振り向く。背後にいたのは、右腕を回転させながらこちらに向かってきている、リゼの姿。彼女はそのままレイルの横隣りを通り越し、鉄化面との間合いを縮めると、跳躍。その顎を目掛けて、下から突き上げる鉄拳を叩きつけた。

 凄まじい勢いのアッパーにより、鉄化面の両足が地面から離れる。

 ふわりと宙に浮かされた鉄化面の身体は、勢いよく背面から地面に落下。

 そんな鉄化面にリゼが飛びかかって、上半身に馬乗りになる。そして彼女はこの個体の代名詞とも言える、頭部に張り付いた顔面を殴打した。繰り返し、何度も。


「あははあははっ、あははっははっ!! 中々、頑丈な装甲だけどねー。その分、壊し甲斐がある玩具じゃない!」


 次第にひしゃげていく、鉄化面の面部。そんな中、抵抗を試みるべく鉄化面は殴打を続けるリゼを掴もうと、両腕を動かした。

 だが、その前にリゼはその身体から飛び退くと、起き上がった鉄化面と距離を置いて対峙。そんな彼女の両隣に、走り寄って来たレイルとイザクが並んだ。

 更に三人の背後からは、気配を感じさせることなくダールまでが姿を現す。


「……どうやら祭りの真っ最中だったようだな、イザク」


「そう見えるか? 倒せないことはないが、あいつの分厚い装甲には手を焼かされている。せっかく俺達が揃ったんだ。四人がかりで、一息に倒さないか?」


 ダールは、こちらを窺う鉄化面を一瞥する。それで戦力分析は済んだのか、右手に掴んだ戦斧を横に構えた。肯定と言うことだろう。

 リゼはと言うと四人の中央に立ちながら、昂ぶる戦意を隠しきれずに口元が弧を描いている。そんな彼女の横顔を見ながら、レイルは言った。


「リゼ、あの時のことは許してやるぜ。お陰で気付かされたからな。俺にはやっぱりアルマさんしかいないって。この仕事で大活躍して、アルマさんを振り向かせてやるって決めたんだ。つーことで、お前にはもう誘惑されねぇ」


「へえ、ああいう女の人が好きなんだねー、レイル君。まあ、とやかくは言わないよ。確かに綺麗な人だし、君が惚れるのも無理はないかもね。じゃあ、私との賭けは反故になっちゃった訳だ。あーあ、だったら純粋に残念かも。君って、まるで弟みたいで……」


「おい、喋ってる暇はないぞ。見ろ、あいつが動くっ!」


 無駄口を叩いていたレイルとリゼが、イザクの一喝で正面に向き直る。すでに鉄化面は地面を踏み鳴らしながら、こちらに全力疾走してきていた。

 レイルとリゼは右、イザクは左に飛んで、その猛突進を回避。ただ一人、ダールだけが微動だにせずに、鉄化面を真っ向から受けて立つ。

「……うおおおおおっ!!!」と、戦斧を放り捨てたダールが雄叫びを上げながら、振り下ろされた鉄化面の右拳を左手で受け止める。続けて振り下ろされた左拳も、右手で受けた。彼の両足が地面にめり込んでいき、じわじわと後退っていく。

 だが、それは僅かな間だけだった。今度は逆に、彼の方が鉄化面の巨体を押し返し始めたのだ。


「すっげぇ馬鹿力だなぁ、ダール! お陰でこの木偶の坊の背中は、隙だらけになったぜ! 喰らいやがれ、キバオレ流剣技『旋風爆獣斬』をよっ!」


 レイルは空中で前方回転して、鉄化面の背後から襲い掛かる。

 突進すると共に、大剣と全身に衝撃波を纏わせた斬撃は鉄化面を直撃。そのまま回転の勢いを衰えさせることなく、矢継ぎ早に斬りまくっていった。

 その技で前のめりになった鉄化面に対する四人の攻撃は、とどまる所を知らず。

 鉄化面の頭上を飛び越すまで跳躍したリゼが、落下の勢いを乗せてその頭部に鉄拳を見舞う。頭部が大きくへこんで前方に倒れ掛かるが、ダールが両手を掴んでいるために、それは阻まれる。

 そこへイザクが鉄化面の急所と見抜いた脇、股、膝の裏側を狙って手にしたククリ刀で素早く斬り裂いていく。それによって、手足がだらりと脱力状態になった。


「……終わりだな。フィニッシュは俺の役目だ」


 止めとばかりにダールが、身体中の筋力を最大限に発揮して鉄化面の腕を引き千切った。まずは右腕。続けて左腕も、根元からもぎ取る。

 そこから更に前方に倒れかかった鉄化面の顔面を掴むと、頭部ごと胴体から力任せに引き剥がす。この時点で、勝敗は決した。鉄化面は戦う力を失い、倒れ伏した後はもう微動だにすることもなくなったのだ。

 それでも念のために確実に機能停止したかを確認すべく、鉄化面の周囲に集まってくる、レイルとイザクとリゼ。

 動かなくなった鉄化面をしばらく見下ろすが、ようやく敵が壊れたことを確信して、勝ちを悟ったレイルが勝ち誇る。


「へっ、やったな。完全にぶっ壊れやがったぜ。魔機の中に、こんな強力な奴がいたなんてびっくりだったけどよ。俺達の手にかかりゃ、まあ、こんなもんだろ」


「俺達に自分達の本拠地まで辿り着かれ、いよいよ魔機達も攻撃に本腰を入れてきた訳か。さしずめ戦闘に特化したこの個体は、この離島の守護者と言った所だろう」


 倒せはしたものの、紛れもなく強敵だった。もし一人で戦っていれば、負けないまでも苦戦は避けられなかったかもしれない。この場の誰もが、そう感じただろう。

 しかしそれでも尚、他の三人の顔を見回してから、リゼは言ってのけた。


「今回はつい共闘しちゃったけどさー。協力関係を結ぶのは、やっぱり本位じゃないんだよねー。分け前が減るのは、絶対に困るんだ。私にはね、どうしても叶えてあげたい夢があるんだよ。じゃあ、そういうことだから、ここからはまた敵同士。私は先に行くよ」


 また一人だけ先んじて駆け出そうとするリゼの肩を、レイルは掴んで止めた。

 そしてアルマからの手紙の内容を、彼女に聞かせてやる。

 誰がブラッドを倒そうと、新生サン・ロー王国の革命王は全員の望みを叶えてくれるのだと。それを聞いたリゼは、ぽかんとした表情でレイルに聞き返す。


「それって、本当なの?」


「おうよ、まじだ。だから無理に足並みを揃えろとは言わねぇけど、俺達が足を引っ張り合う必要なんてねぇんだよ」


 リゼは少しの間、俯きながら頭をぽりぽりと掻いて、ばつが悪そうにする。

 しかしすぐに嬉しそうに顔を輝かせ息を弾ませると、素直に謝罪。


「ごめんねー、レイル君。そういうことなら、君とは仲良くやれそう」


 そう言って、リゼは右手をレイルの方に差し出してくる。仲直りの握手をしたいと言うことだろう。彼女に殺されかけたレイルにとっては虫が良すぎる話だが、レイルは快くその手を握り返した。


「ああ、女相手にいつまでもぐちぐち言うのは、男としてみっともねぇからな。過去のことは水に流してやるぜ。改めてよろしくな、リゼ」


 レイルはリゼとの握手を終えると、決意を新たにすべく、顔の頬を叩いて気合いを入れ直す。そして目的地である、遠くに見える大聖堂を見上げた。

 この日、確かにレイルとリゼは利害の不一致から、一度は敵対する羽目になった。

 だが、二人の道は……いや、この街に送り込まれたメンバー五人の辿る道は遠からず重なり合う。まるで定めであるかのように、一人一人を逆らえない大きな潮流に巻き込み、やがて迎える結末へと進んでいくのだった。

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