或る大学生のお話
空飛ぶゴリラすん
或る大学生のお話
僕は現在大学4年生
大学の
「軽音サークル」
に所属しており、所謂
「普通の大学生」
である。
そして今年、大学生活最後の夏休みを迎えている。
今日は卒業に関わる課題を先生に提出するために、朝早くから大学に登校し、それを終えたので今喫煙所で一服をしている。
この大学の4年間という期限の中で僕は、
「自分とは何者なのか?」
「将来何がしたいのか?」
その答えを探さなければならなかった。
でもそれを知るきっかけすらない今の僕には当然のことながら、もうそれを探す時間に猶予などはない。
「思い立ったら即行動」
喫煙所の近くにある掲示板に貼ってあるポスターに書かれていたフレーズ。
僕はこれに悪態をつきながら、惰性で吸っている煙草の煙を宙に吐き出した。その煙の無軌道な動きに自分を重ね合わせながら、漠然とした不安を抱えて、また今日もいつものように無駄と思える一日を塗り潰すのだろう。
そう思った。
用事が済んだ今、このまま家に帰ってもいいのだが、ふと遊びを思いついた。
その遊びとは「懇親会」と称して僕の住む地元の商店街のファミリーレストランに朝から集まっている
「軽音サークルのメンバー」
を見つけて、メンバー全員の罪を確認し逮捕するというもの。
その際にオモチャの手錠をかける。そうして「悪人」を連ねて大所帯で商店街を練り歩こうというものだ。
我ながらよくもまぁこんな突拍子もないことを考えついたものだと思う。
さっそく100円均一のお店に入ってオモチャの手錠を9個ほど購入した。
これで「悪人」とたくさん繋がることができる。
そして目的地のファミリーレストランへ移動し到着すると、窓越しからお店の中にサークルメンバーが全員いるのが確認できた。
全員で9人いて楽しそうに話をしている。こいつら全員を
「朝から遊んで勉強しない罪」
で逮捕する。さっそくファミリーレストランに入り、全員にこう告げた。
『お前らを勉強しない罪で逮捕する』
そう言われて9人は皆、顔を見合わせてキョトンとしている。
そんな中僕は続けてみんなにこう告げた。
『みんなに手錠を掛ける。時間があるなら付き合って』
そう言われて全員がこの遊びに乗ってきた。
ファミリーリーレストランでのお会計を済ませた後、外に出て全員に手錠をかけ、一列に並ぶ悪人の列ができた。
この「罪で繋がれた悪人たち」で商店街を連なって歩いた。
悪人が集まって、みんな手錠を掛けられながら、堂々と表を歩いている。この事が僕はなんだか可笑しくなってきて、笑いがこみ上げてきた。
僕が笑うと一人また一人と笑い声があがった。
なんだか今悩んでいる あんなことやこんなことも、案外ちっぽけな事なのかもしれないと思えた。この手首に着いている手錠だけではなく、僕らは世の中の色々なものに縛られている。
そう思った。
みんなで商店街を歩いているとアーケード通りに差し掛かった。
『じゃこの辺で。楽しかったよ』
と言って僕はサークルメンバーと離れることにした。
全員の手錠を外し挨拶をしてお別れをした。
そして僕は一人でアーケード通りを歩き出した。
『この残った9個の手錠、どうしよう』
と思いながら鞄に手錠を仕舞った。
それでも僕はえもいわれぬ満足感を感じていた。
アーケード通りを歩いていて、またふと遊びを思いついてしまった。
それは自分のことを
「誰もが知っている大物ミュージシャン」
という設定にして、アーケード通りを歩いて抜けるまでに、街の人たちに、
「有名人がここにいると気づかれたら負け」
というものだ。
さっそく100円均一のお店に入って今度はサングラスを購入し装着した。
これでおいそれとはバレまい。
そしてひっそりと通りを歩く。
サングラスの効果は絶大で、誰も僕が大物ミュージシャンだと気づかない。
しめしめと内心でほくそ笑んでいるうちに、アーケード通りを歩いて抜けた。
僕はこの遊びに勝ったのだ。
内心で嬉々としてニヤニヤしていると、通りを抜けてすぐに頭にポタッと何か落ちてきた。
雨かなと思ったら鳥のフンだった。
ふと我に返る。
僕は一体、何をしているのだろう?
或る大学生のお話 空飛ぶゴリラすん @vetaashi0325
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