第16話 三次元世界の二次元美少◯!!

 見た目は天使だが性格は鬱陶しい優衣を遠ざけるための、名案を思いついた。


 優衣を遠ざけるには、嫌われて、振られたらいいんだ!


 幸い僕には、女の子に嫌われそうなポイントがいくつもある。(自分で言ったくせに、悲しくなってきた)


 これを駆使して、頑張って優衣に嫌われよう。




 氷雨が家に帰ってから、僕は優衣に話しかけた。


「ねえ、優衣はさ、僕のことが好きなんだよね?」

「今更何を言っているのかしら? 私はあんたのフィアンセよ! 大好きに決まってるわ!」


 いつも思うのだが、よくこんな恥ずかしい台詞を胸を張って言えるよな。

 本当にすごいと思う。僕には真似出来そうに無い。


「その気持ちは嬉しいけれど、僕はね、二次元にしか興味ないんだ」

「え?」


 訳がわからない。そんな目で僕を見つめる優衣。


「じゃあ、僕は学校に行くから、荷造りでもしといて」


 と言い残して家を出た。


 優衣の表情からして、作戦は成功だ。

 家に帰る頃には、ゆいが出て行ってくれているだろう。


 ああ、心が軽い!


 人生って、素晴らしい!






 ルンルン気分で楽しくない授業を受けていると、いきなり扉が勢いよく開いて、私服姿の優衣が入ってきた。


 教室がざわつき、先生が慌てふためいている。


 そんな中、優衣が教壇に仁王立ちになって、僕をビシッと指差した。


「玲! 朝の『好きだよ』宣言、嬉しかったわ! あんた、貧乳にしか興味がなかったのね!」


 何を大声で言っとるんじゃ、お主は!


 僕の気持ちなどかけらほどにも理解していないであろう優衣は、ドヤ顔で胸を張って、自分の胸部をアピールしている。


「望月ってロリコンだったのかよ」「キモ〜」「ないわ〜」「何故望月なんかの告白が、あんなに可愛いロリっこにOKされてんだああぁぁぁあ!」とクラスメイトが騒ぎ立てる。


 眠気に包まれていた教室が阿鼻叫喚の地獄絵図となり、血の涙を流す男性陣と、絶対零度の目つきの女性陣が、僕にあからさまな殺気を向ける。


 元々少なかった僕への高感度が一気に無くなってしまった。


「ちょっと来て!」


 僕は優衣の腕を引いて教室から飛び出し、階段の裏の物陰に隠れた。


「なんで皆んなの前であんなこと言ったんだよ!?」

「照れてるのかしら? ツンデレね」

「違う! 怒ってるの!」

「どうしてかしら?」


 ああ、もう!

 本当にわかっていないようだから、余計に手がかかる。


「いい? 僕は貧乳好きじゃないから。その事をクラスの皆に伝えて」

「どうしてかしら?」

「好きな人の願いを叶えてくれる?」

「分かったわ!」


 ちょろい。

 優衣がちょろい女の子で助かった。(変な意味はないです)


 僕は優衣を連れて教室に戻ルト、優衣は教室に入るなり、深々と頭を下げてくれた。


「ごめんなさい。私は早とちりをしてしまっていたわ」


 おっ。ちゃんと謝ったぞ。やればできるじゃないか。


「玲は貧乳好きじゃなくて、男が好きだったらしいわ!」


 ぅおぉい! ちょっと待ちやがれ! 何ほざいとんねん!

 男好きの男子高校生って、貧乳好きよりやばくないか!?


「何故そうなったの!?」

「あんたは二次元…………平らな子が好きだけど、貧乳好きじゃないのよね? なら、男好きとしか考えられないわ! 私はあんたのために、可愛い男の娘を目指すわ!」


 二次元ってそーいう意味じゃねーよ!

 画面の向こうの世界って意味だ!


 可愛らしい女の子のキャラクターとか、ツンデレちゃんとか、女騎士とか、僕はそんな子が好きなの!

 もちろんリアルの女の子も好きだけど…………


 その事を優衣に説明しようと思ったのだが、その前にこの教室から脱出した方が良さそうだ。


 男子たちはモロにドン引きしているし、女の子たちは白い目で見つめているし、腐女子たちはキラキラの目を輝かせている。

 そして、二十代中頃の男性教師は、息を切らして興奮している。


 怖い!


「ちょ、先生、落ち着いてください!」

「落ち着いていられるかよ! 目の前にいい男がいるんだからよ!」


 目の前に暴走している『HENTAIさん』が二人もいるよぉ!


「教師なのに生徒に向かって『イイオトコ』とか言わないでください! 犯罪の匂いしかしません!」

「確かに生徒と教師が男女の関係になったら一発でアウトだが、男々だんだんの関係ならOKだろ!?」


 ンなわけあるかあああああ!


 そもそも『男々の関係』って何?

 男同士でも犯罪だっつーのっ!


「さあ、関係を持とうぜ!」

「ちょっと! 私のフィアンセを誘惑しないでよね」

「恋のライバル出現だわ♡」


 そのの腐女子、黙りなさい!


「誠実な俺の思いを受け取ってくれ! 物陰で愛の営みをしようではないか!」

「玲! 私と一緒に逃げるのよ!」

「どっちもお断りだああああああ!」


 扉を蹴破って教室から飛び出し、ダッシュで廊下を駆け抜けた!


 階段を数段飛び降りて、渡り廊下で人を跳ね飛ばして、停学や反省文を覚悟して、廊下を歩いていた氷雨とぶつかりそうになり、急ブレーキでストップした。


「玲? 廊下で走ったら危ないよ」


 氷雨がもっともな事を言っているが、状況が状況なので聞かなかったことにしよう。


 氷雨はつい先ほどまで体育の授業をしていたらしく、体がしっとり。半袖半ズボンの体操服(よく見たらちょっと透けてる)が魅力的だ。


「今から着替えるんだよね?」

「そうだけど…………」

「唐突で悪いんだけど、スカートと髪飾りを貸してくれない?」

「何に使うの?」

「女装して、奴らの目を欺きたいんだ!」


『ノートブック』を『マック◯ック』の値段で買わされるくらい意味不明な要求に戸惑う氷雨。

 おろおろしている姿も可愛い。


「イイぞ。ほら、スカートと髪飾りとカツラとパッドだ」


 僕に謎の紙袋を差し出したのは、氷雨の担任で、(自称)25歳の『月城つきしろ 優希ゆき』先生だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る