第15話 両手に華の一夜

 結局、皆んなで僕のベットに寝ることになった。


 両手に華だ! ヤッフォーイ!


 と、言いたいところだが、僕のベット(一人用)に三人で寝るのはちょっとじゃなく窮屈じゃないかな?


 二人の美少女と密着して寝る…………


 一般的な男子にとっては夢のようなシュチュエーションだが、肩が凝りそうで心配だ。


 それ以前に、眠れるだろうか。

 興奮して眠れない気がする。


 そんな嬉し…………じゃなくて、厄介な悩みを抱えたまま、夜を迎えてしまった。


 現在氷雨は、お風呂から上がってすぐだから、全体的にちょっと赤くて、少し湯気がたっていて、なんか色っぽくて興奮する。

 まだ少し湿っているロングヘアーを、タオルとドライヤーを駆使して乾かす姿が、とっても可愛い!

 マジ天使!


 天使様を眺めていて思ったのだが、女の子はお肌のお手入れが大変そうだ。


 カバンから取り出した3本のボトルを机の上に並べ、それを順番に顔に塗っていく。


「何を塗っていたの?」

「これ? 『化粧水』と『美容液』と『乳液』よ」


 知らない単語が三つも出て来た。

 何語だろう?


「えっと〜」


 頭上で?マークが回っている僕のために、氷雨が説明してくれた。


「簡単に説明すると、化粧水がお肌に水分を与えてくれて、美容液が保湿用で、乳液が水分を逃さないようにするものかな」


 氷雨の説明はありがたいが、三つとも意味不明でさっぱりわからん。


 三つとも肌を乾燥させないようにするための何か(?)だとは分かったが、何がどう違うのだろう?


 僕がそれを理解できる日は一生こないだろう。


 よくわからないものを三つも塗らないといけないなんて、女の子は大変だなあ。


「氷雨、あんたもよく、訳のわからない物のためにお金と時間を使えるわね。それがないと困ることがあるわけ?」

「お肌がカサカサになっちゃたり…………」


 ビクッ! と優衣が震える。


「ニキビができちゃったりとか」


 そっと自分の頬に手を当てて、真っ青になる優衣。


「ま、まあ、ぁ、私はぁ……大丈夫よ」


 動揺して、いつもより言動がおかしくなっている。

 優衣のほっぺたは柔らかくてしっとりしてるから、気にする必要ないと思うけどなあ。


 僕はそう思うのだが、優衣は困ったように僕を見つめる。


「塗ってあげようか?」


 優衣が急に元気になった。


「べ、別にいらないけど、どうしてもと言うなら、塗られてあげるわ」

「素直じゃないね」


 と、丁寧に『三点セット』を塗ってあげる。


 氷雨は本当に天使だな。






 僕たちは3人でベットに潜った。


 少しの間、みんなでくだらない事を面白おかしく話していたのだが、途中から優衣の声が聞こえなくなった。


「寝ちゃったね」

「気持ちよさそうだね」


 僕と氷雨の隣で、優衣はすやすやと眠っていた。


「今日一日、元気だったから疲れちゃったみたいだね」

「しょうがないよ。優衣ちゃんはまだ子供なんだからさ」

「優衣は中三だよ」

「え? 本当?」

「違うよ」


「「え?」」


 優衣は中三じゃなかったっけ?

 優衣に確認しようと思ったら、安らかな寝息が聞こえた。


 どうやら、寝言だったらしい。


「僕たちも寝よっか」

「そうだね。おやすみ」

「おやすみ」


 氷雨が僕を見つめながら、ゆっくりと目を閉じた。


 僕も寝ようと思ったのだが、眠れそうにない。


 右隣に優衣がいて、左隣に氷雨がいて、小さなシングルベッドの中、僕は二人の美少女にサンドされている。

 狭くてほとんど身動きが取れないから寝返りも打てないし、窮屈だけれど、あったかくて嬉しい。


 ふんわり温かい掛け布団の中で可愛い女の子と密着しているから、鼓動が早くなる。



 こんな状態で眠れるかよ!


 と思っていたのだが、いろいろあって疲れたせいか、あっさりと眠りにつくことができた。






 ゴキッ!


 と鈍い音とともに左腕に激痛が走り、僕は目が覚めてしまった。


 何事かと思い左手を確認すると、氷雨が僕に抱きついていた。

 両腕を僕の脇の下に通すように抱きついて、手を太腿に絡められている。


 暖かい天使様の胸に腕が挟まれて、恥骨のあたりが手首に押し付けられる。


 まるで天国のような状況だが、関節を極められる痛みを快感に変えられるほど、僕は上級者では無い。


 氷雨たちを起こさないように、静かに腕を離してもらった。


「…………………………」


 夜の闇に目が慣れて、ぼんやりと氷雨の顔が見えるようになった。


 氷雨は安心しきった寝顔で、すやすやと寝息を立てている。

 そんな美少女を見ていると、彼女を抱きしめたいという衝動にかられ、理性がぶっ飛びそうになる。


 やめろ!

 やめるんだ僕!


 氷雨は僕を信用してくれているから、一緒に寝てもいいと言ってくれたんだぞっ!

 好きな女の子の信頼を裏切ってもいいのか?


 でも、先に抱きついてきたのは氷雨だし、少しなら抱きしめてもいいよね?


 自分との議論で結論が出たので、僕は少しだけ氷雨を愛でることにした。


 ゆっくりと氷雨に手を伸ばそうとしたその時、優衣の回し蹴りが横っ腹に炸裂して、我にかえった。


 やっぱり、こんな事をするのは良く無いな。


 何もせず、大人しく寝よう。






  朝


「優衣、昨日はありがとう」

「? なんのことかしら? でも、お礼を言われると悪い気はしないわね。それじゃ、お礼を払ってもらうわよ!」


 飛びついてきた結衣を取り押さえながら、昨日の夜に寝相とはいえ、正気に戻してくれた事を感謝した。

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