第12話 幼馴染の美少女が可愛くて困っています!
今日、学校から家に帰ると、ポストに僕当ての手紙が入っていた。
うわぁ!
チラシや通販以外の、僕当ての郵便物って何か月――――何年ぶりだろう!
嬉しいな♪
嬉しいな♪
僕は優衣に手紙を見られないよう、トイレで手紙を読んだ。
『月曜日の夕方にあんたの家に行くわよ。そこで私に食事を出しなさい! 以上!
どっかのライトノベルのヒロインみたいな内容の手紙を送って来た、幼馴染の三村氷雨が、月曜日に我が家に来るらしい。
月曜日って、今日じゃん。
やばい。どうしよう。
母さんは今日、用事があるから帰ってこないし、姉さんは旅行中だ。
いつも食卓を彩る料理を作ってくれている人が、今日はいないのだ。(無論僕は料理が出来ない)
あ、そうだ!
優衣は女の子だし、料理が出来るかな…………?
やっぱやめた。
たとえ優衣の料理の腕がプロ級だったとしても、優衣に包丁を握らせるのは『殺してくれ』と言ってるようなもんだ。
ああ、もう!
今日の夕食はカップラーメンとかで済ませる予定だったのにぃ!
しょうがない。
こうなったら、氷雨に頭を下げて、夕飯を作ってもらうか。
氷雨は料理ができたはずだしな。
***
遠くの空が夕日で紅く染まるころ、インターフォンが鳴った。
ドアスコープで、外にいる人物が氷雨である事を確認してから、扉を開けた。
「外は寒いから、早く中に入れてよね」
ほっぺたを膨らませて、ちょっと怒った風に言う氷雨。
インターフォンが鳴ってから、数秒後には扉を開けたと思うんだけどなあ。
そんな僕を無視して、氷雨が我が家に入って来る。
艶のある黒のロングヘアーの彼女は、優衣にも勝る美少女で、歳は17。要するに高校三年生だ!
彼女なら、優衣と違って(ここ重要)恋愛対象として扱っても大丈夫だ。
「ご飯の匂いが全くしないんだけれど、気のせいかなぁ?」
首をかしげる氷雨の姿が、とても可愛い。
「あ、ごめん。家に母さんも姉さんもいなくて、何も作れてないんだ」
「あ! 分かった!」
「何が?」
恐る恐る、聞いてみる。
「私が出来立ての料理を食べれるように、私が玲の家に来てから、料理を作り始める予定だったのね」
「あの…………」
「だけどね、玲。自分の腕を知った方がいいよ」
は?
「私のためにご飯を作ろうとしてくれているのは、とても嬉しいよ」
ごめんなさい。僕は君に晩御飯を作ってもらう予定でした。
「でもね、君は不器用で料理が下手で、控えめに言って、何もかもが下手なんだよ」
え!?
本当に控えめに言ってるの!?
もし本当に控えめに言っているのなら、無理ゲーのラスボス並みの精神攻撃力があるよ!
「だから、私にご飯を作らせてね。玲のために、お母さんから料理を習ったんだ」
「うん。ありがと」
「!? えっと……その…………面と向かってお礼を言われると、ちょっと恥ずかしいかな」
そう、頬を紅く染める。
可愛いな。
「じゃあ、さっそく作り始めるね」
「うん」
氷雨が我が家のキッチンに立ち、慣れた手つきで料理を始めた。
家に夜ご飯のいい香りが広がるころ、僕の部屋でお昼寝(夕方だけど……)をしていた優衣が、リビングにやって来た。
「玲…………美味しそうな匂いね! 今日のメニューは何かしら!」
元気に明るく、笑顔でリビングに入った優衣だったが、キッチンにいる氷雨を見つけて、思いっ切り嫌そうな顔をする。
そして氷雨は、優衣に対して、背筋が凍るような殺気を放つ。
優衣と氷雨は、しばらくの間睨み合っていたが、やがて二人が同時に口を開いた。
「「玲、こいつは誰かしら(なの)!?」」
優衣の不機嫌が、氷雨の殺気が、僕に向けられる。
「えっと…………自己紹介、しようか…………」
どんな反応をされるか不安だったが、二人はちゃんと自己紹介を始めてくれた。
「私は三村氷雨。幼いころから玲と一緒にいる、玲の幼馴染よ」
優衣が『幼馴染』という言葉に反応して、悔しそうに唸る。
「私は聖優衣。玲のフィアンセよ!」
「「なっ!?」」
『フィアンセ』と言う言葉に心底驚く氷雨と僕。
「…………君がいくらフィアンセでも、私が玲と積み重ねてきた、沢山の思い出には敵わないよ」
「ふん! どうせ、ろくな思い出無いんでしょ!」
「いいえ。この前玲と見た夜景は、とても綺麗だったよ」
そういえば一か月ほど前に、一緒に夜景を見たなぁ。テレビで、だけど…………
「むぅ…………」
「それだけじゃないよ! 私は…………」
一拍だけ間を置き、
「玲と一緒に寝たことも、お風呂に入ったことも、何回もあるよ!」
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