第11話 変な服装で出歩かれて困っています!

「あのさ、優衣は学校に行かなくていいの?」

「学校? あのサルの巣窟のことね。あんなうるさくて騒がしい場所に行くなんて、愚の骨頂だわ。そうでしょ?」


 サルの巣窟?


 優衣の学校はそんなにうるさい奴が、たくさんいるんだ。


「要するに優衣は、不登校ということだね?」


「そうよっ!」と、胸を張ってドヤ顔する優衣。


 そんな事を、胸を張って言われてもなあ。

 優衣の行動は全くもって意味不明だ。


 でも…………不登校になったという事は、それなりの悩みがあったという事だろう。


 僕も、ちょっと前までは不登校だったから分かる。


 きっと彼女も、辛い経験をしたのだ。


 少しは優衣に優しくしてあげようと思った。


「…………いつから不登校なの?」

「先週の金曜日からよ。私はいつでも、あんたの側にいなくちゃいけなくなったから、学校を辞めたのよっ!」


 はあ?

 そんな理由?


 心配して損した。


 やっぱり、優衣には優しくしなくてもいいや。


「じゃあ、僕は学校に行ってくるから、大人しく待っててね」

「大人しく…………? あんたは、大人っぽい女性が好みなのかしら?」

「少なくとも、優衣よりかは大人っぽい女性ひとがいいかな」


「分かったわ」


 優衣の可愛らしいけどちょっと怖い笑顔に見送られて、僕は学校に向かった。


 優衣は何をしでかすつもりなのだろうか?



***



 学校に着いた。


 ガラガラと扉を開けて、


「みんな、おはよ!」


 そう言って元気に教室に入るが、挨拶を返してくれる人は一人もいない。


 いいもん!

 どうせ僕はボッチですよ~だ!


「あ、望月くん、ちょっといいかな?」


 高校三年生のはずなのに、まだまだ幼さが抜けていないというか、女の子っぽい声で話しかけて来たのは、泉さんの彼氏(信じたくない)の月城つきしろルナだ。

 名前もまるで女の子だ。


「何?」

「昨日、泉さんに千円もする『パフェと紅茶のセット』を買ってくれたんだよね?」


 え? もしかして、僕は怒られてるの?

 月城の彼女と二人っきりで、カフェに行っちゃったから、憎まれているの!?


「まあ…………」

「ごめんね」


 何故が月城に頭を下げられた。


 どういうこと?

 今の流れって、雰囲気的に僕が怒られる雰囲気だったよね?


「君には、泉さんの自分勝手なわがままで迷惑をかけちゃったよね? 本当にごめん!」

「だ、大丈夫だよ。僕は勉強を教えてもらったお礼に、パフェをおごっただけだから…………」


「でも…………お金は返すよ。自分勝手なわがまま女の迷惑料として、ちょっと多めに返すよ」

「そんなの、いらないよ。それよりも、後ろにいる泉さんをどうにかした方がいいんじゃ…………」


「え?」


 ゆっくりと、振り返る月城。


 そして、


「誰が『自分勝手なわがまま女』なのかなぁ?」

「あ、泉さん、おはよ…………」

「ま、別にいいんだけどね。また今度、オムライスを作ってくれたら」

「…………分かったよ」


「で、ごめんなさい、は?」

「え? オムライスを作ればいいんじゃ…………」

「『ご・め・ん・な・さ・い』は?」

「ごめんなさい」


 泉さんって、結構怖いな。


「月城くんって料理得意なの?」

「まあね」

「この子、料理は得意だよ」


 がくっ、と、悲しそうに下を向く月城。


「今度、僕にもごちそうしてよ」

「いいよ。今週はバイトで忙しいから、来週ね」


 バイト?

 受験生なのに?


 家の事情かな…………?


 デリケートな話題な気がしたので、深く聞かない事にした。


「朝礼始めるぞー」


 僕たちは自分の席へ急いだ。



***



 放課後、校門から学校を出た僕を出迎えたのは、珍妙な格好の優衣だった。


 学校に行く前に、大人っぽい人についての話をしていたから、大人っぽい服を選んだつもりなのだと思うが…………


 普通に、変だ。というか、滑稽だ。


 ヒョウ柄のコートはぶかぶかだし、胸には風船(らしきもの)を入れて盛っているし、両手の指には、これ見よがしに安物感あふれる宝石の指輪(プラスチック製)!!


 ハッキリ言って――――いや、はっきり言わなくてもおばさん臭い。


「何? その格好?」

「どう?? 大人っぽい?」


 喋り方もなんか変だ。


 優衣は元々変な奴だったが、今の彼女はいつも以上に変だ。


「あんた…………じゃなくて、あなたは、こんな女性が好みですわよね!?」


 たのむから、そーいうことを皆の前で言わないで!

 ほら! 皆が僕たちを変な目で見ているよ!


「…………ごめんだけど、全くに似合ってないよ」

「やっぱりそうよねっ! あんたと同意見なのは嫌だけど、私もそう思うわ」


「……………………」


 今日も、優衣は変な奴だ。

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