第8話 友達が変なものを持って来たので困っています!

 家に神代律がやって来た。


 彼は無言のまま家にあがり、僕の部屋に入った。


 そして、唐突に土下座した。


「一昨日はごめん! この通りだ」

「え? ちょと、いきなり何?」


 神代の唐突な奇行に慌てふためいた僕だったが、家に優衣がいないことを思いだして少し安心する。


 優衣は家に帰ってくれた。


 いや、スマホを取りに帰ったと言う方が正しいだろう。


 優衣が家に帰って来た時、どうすれば追い返せるのか。それを考えている途中に神代が来たのだ。


「と、とりあえず頭を上げてよ」

「ああ」


 神代が頭を上げてくれた。


「ごめんな。お前の苦しみに気付いてやれなくて」


 オマエノクルシミ? 何それ?


「えっと…………」

「何も言わなくていい。彼女がいないという寂しさが、お前に女装趣味を与えてしまったんだろ?」


 一昨日に言ったその場しのぎのウソが原因で、とんでもない誤解されてる!?


「これ、彼女が出来たら、着てもらおうと思って買った服なんだが、彼女どころか女友達もいねえし、お前にやるよ」


 神代がそう言って、僕に紙袋を渡した。


「小柄なお前なら着れるだろ?」


 紙袋の中身はコスプレ衣装だった。それも魔法の。


 魔法少女の衣装は、スカートの丈が短すぎるので、横からでも中が見えちゃいそうだし、おへそも丸出しだ。

 そして何より全体的に露出度が高すぎる。


 こんなの着ないよ!


 たとえ露出度が低くても、魔法少女のコスプレ衣装を着ることは無いのだが…………


「また今度、それを着た写真送ってくれよ」


 インターネットからホラー画像送ってやるよ!


 全く…………どうして僕の周りには変人しかいないのだろうか?


 この魔法少女の服は神代に返したいのだが、彼は全くの善意で『コレ』を僕にくれたのだ。

 女装が嫌だからという理由で『コレ』の受け取りを拒否したら、僕が酷い奴になってしまう。


 ここは『コレ』を受け取っておくべきだろう。

 雑巾を買いに行こうかと思っていたので、ちょうどいい機会だ。


「この服、ありがとね」と、棒読みする僕。

「この服ってどの服?」


 神代が僕にどの服を渡したか分かっていないはずがない。

 となると、この声の主は…………?


 恐る恐る、声が聞こえた方を見る。


 そこには予想通り、今最も見たくない人物――――優衣がいた。


「…………この子誰? 親戚の子?」


 やっぱりそうなるよね。


「そんなのじゃないよ」

「そうよ! フィアンセと親戚の子を間違えられるなんて、失礼ね!」


 フィアンセ!?

 誰の!?


「フィ、フィ、フィ、フィ、フィアンセって誰のだ!?」


 うん! それは僕も聞きたい!


「もちろん、玲のよ!」と言って、僕に抱き着く優衣。


「「はああぁぁぁぁああ??」」

 僕と神代の声が見事に重なった。


「フィアンセ? こんな奴(望月玲)の!?」


 おい! それはどういう意味?


「そうよ。チビで、運動音痴で、非リアな玲でも、私のフィアンセよ」


 とびっきりの美少女に「フィアンセ」と言ってもらえるのはとても嬉しい事のはずなのに、全然嬉しくない。むしろムカつく。


「お前、俺を裏切ったんだな?」

「え? ちょっと、血の涙を流さないで!」

「黙れ! 心配していたのに…………望月、お前は美少女と婚約していやがったのか!」


 優衣が「美少女」という言葉に反応して「えへへ」と照れ笑いする姿が愛くるしいが、今はそれどころではない!


「裏切者には《死》だ!」


 神代が近くにあったイスを持ち上げる!


 そこに優衣が割って入った!


「やめて! そんなので玲を殺さないで!」


 優衣! 君は僕を庇ってくれるのか!

 今度おもちゃを買ってあげるね!


「そんなので殴られたら痛いでしょ! これを使って!」


 優衣が神代に折り畳み式のナイフを渡し、自分ももう一本のナイフを握った。


 彼女を味方だと思った僕がバカだった!


「観念しろ! 望月!」

「今日こそ大人しく心中しなさい!」


 僕を狙う殺人鬼が一人から二人に増えた。


「ま、待ってくれ優衣。僕は君の恋人として、やり残したことがあるんだ! だから…………」

「なら、あの世で二人っきりでソレをしましょうね♡」


 優衣が僕の額にナイフを振り下ろす!




 そこで、意識が途絶えた。







「あ、気絶しちゃったわよ」

「そうだな」

「おもちゃのナイフなのにね」

「なんだか、こいつに腹を立てているのがバカらしく思えてきた」

「そうね」

「俺、帰る」

「うん!」

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