第2話 同棲をしたいと迫られて困っています!

 心中を断った僕は、急ぎ足で帰路についた。


 残念なことに、脅迫まがいの告白をしてきた少女も一緒だ。


「君は僕に、恋をしてと言ったけど、具体的に何をすればいいの?」


「しらないわよ」


 え?

 何も考えていなかったの?


「とりあえず、自己紹介でもする? 僕たち、まだお互いの名前も知らないしね」

「そうね。まず、あんたから自己紹介しなさいよ」


「うん。俺は望月もちずきれい。高三だよ」


「私はひじり優衣ゆい。中三よ。優衣って呼べばいいわ」


 聖優衣か。

 よし。

 僕の脳内ブラックリストに登録っと。


「え!? 君中三なの!? 高三と中三の付き合いは、ちょっと良くないんじゃ……」

「大丈夫。恋の前には、年齢も、性別も、種族も関係ないって、先生が言っていたわ」


 かなり無茶苦茶言っている先生だな。


「その先生はどこの誰?」


「心療内科の先生よ」


 心療内科?

 思いもよらない言葉が出てきて、僕は眉をひそめる。


「どうしてそんなところに?」

「自殺しようと思って、いい死に方が無いか親に聞いたら、連れて行かれた」


 おいおい。


 なぜ自殺しようとしたかは、聞かない方がいい様な気がしたので、聞かないことにした。


「ま、そんなことはどうでもいいわよね? さあ、あんたの家にさっさと行くわよ!」

「ちょっと待ってよ。僕の家で何をする気?」

「同棲よ。私たちは恋人なんだから、当然でしょ?」


 今更だけれど、この子にかかわった事をもの凄く後悔している。



***



 家に着いた。


 優衣には「着いて来ないで」と言い続けたが全く効果がなかった。

 はじめから分かっていた事ではあるのだが……


 それよりも、彼女の事をどうやって母さんに説明しよう?


「はあ……」

「どうしたのかしら? ため息なんかついちゃって。何か嫌なことでもあったのかしら?」

「君がそばにいる事が、僕にとって一番嫌なことだよ」

「じゃあ死のうか?」


 鞄からロープを取り出し、首に巻きながら彼女はたずねる。


「それはやめて。そばにいていいから」


「なら死なないわ」


 僕には彼女の思考回路が全くもって理解できない。

 彼女はなぜ僕を巻き込む?

 彼女は僕の事が好きでも何でもないと言っているのに……


 知りたいことはサハラ砂漠の砂の数ほどたくさんあるが、今は考えていても始まらない。むしろ終わる。


 今は彼女を観察して、優衣という未知の生命体を少しでも知ろう。


「ただいま」


 僕が家に入った丁度その時、玄関に母さんがいた。


「おかえり、玲。あら? お友達を連れて来たのね。あんたにも友達がいたんだねえ」


 おい。

 今サラッと酷い暴言を吐かなかったか?


「いいえ。玲と私はそんな関係じゃないですよ」

「え? なら、クラスメイト?」

「恋人です」


 おい!

 今なんて言った?


 そんなの、僕は嫌だよ。君と恋人だなんて……


「そう! じゃあ私は二人の邪魔をしないように、買い物に行ってくるわね!」


 と、ニヤニヤしながらスーパーの方へ走っていく母さん。

 はあ……頭が痛い。


「とりあえず上がって。何もない家だけど」

「家に何もないなら、何か買って来なさい!」


 優衣は僕の恋人だよね?

 どうしてこんなにも僕に冷たいのかな?


 ツンデレって奴? いや、優衣に「ツン」はウニのごとく沢山あるけれど「デレ」がないな。


「面倒くさいからヤダ。冷蔵庫にジュースがあるから、それでいいでしょ?」

「何もないって言っていたのに、ちゃんとあるじゃない」


 ああ、ぶん殴りたい。





 

 優衣は僕の部屋に入ると、いきなりベットに飛び乗った。


「ふ~ん。思ったより清潔ね」

「まあね」


 彼女は僕の返事を無視して、僕の枕を抱いてみる。


「固い……」


 枕の好みなんて人の勝手だろ?


 まあいいや。


「で、君は僕の家に何しに来たの?」

「さっき同棲するっ言ったっわよね?」


 え? それ本気だったの?


「同棲は無理だよ。空き部屋はないし、あったとしても、中学生と高校生の男女がひとつ屋根の下というのは……」


「照れてるの?」

「違うよ! 周りに変な目で見られそうだから嫌なの!」

「私は気にしないから大丈夫」


 気にしろ! お前には貞操観念が無いのか!


 本当に頭が痛くなってきた。また頭痛薬を飲もう。


「それでも、同棲は絶対ダメ!」

「なら同居」


 ああ、もう!


 優衣は何も分かっていない。


 そもそも、彼女を説得しようとするのが間違っているんだ。後で彼女の両親に連絡して、迎えに来てもらおう。


「話を変えるね。君はどうして、すぐに死のうとするの?」

「あんたが私に恋をしないからに決まっているでしょ?」


 何言ってんだ?


「私にはもう、お前しかない。だから――――いや、何でもないわ」

「…………」


 もしかすると優衣は、本気で僕の事を大切に思ってくれているのかもしれない。もしそうだったとしても、僕は本気で彼女を邪魔だと思う事に変わりはないのだが……


「はあ……」

「ため息をついている暇があるのなら、ジュース持ってきてよ」

「あ、うん。すぐ行く」


 あれ?

 もしかして僕は、中学生の女の子にこき使われてる?

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