僕の家に美少女が住み着いてしまった件

フカミリン

第1話 脅迫のような告白をされて困っています!

 今日はもう学校終わり!


 授業という名の睡魔との戦闘から解放された僕は、寄り道せずに真っ直ぐ下駄箱に向かった。


 下駄箱を開けて靴を取り出すと、一通の手紙が落ちた。


「何だろう?」


 もしかして……


 女の子からのラブレターだと思った僕は急いで封筒を開け、中の手紙を読む。



 

 放課後、体育館裏に来い。

 さもなくば『死』

 誰かに言っても『死』




 手紙はラブレターとはかけ離れた内容の脅迫状だった。

 ラブレターじゃなくてとても残念だ。


「はあ……」


 生まれて初めてラブレターをもらえたと思い、喜んでいたから、悲しい。


 胸がぽっかりと開いたような虚しさを背負い、僕は帰路についた。


 ……………………


 いや、待てよ僕!

 俺は脅迫状を受け取ったんだよ。


 まずは、先生に報告するべき……なのかな?


 不味い。非常に不味い。


 僕は脅迫状を受け取った経験が無いから、脅迫状を受け取った時にどうすればいいのか分からない。


 うーん、どうしよう……?


 僕は十分ほど悩み続けた末、体育館裏に行くことにした。



***



 体育館の裏に着いた僕は、制服ではなく、私服を着た少女の後姿を見つけた。


「この脅迫状を僕にくれたのは君?」

「ええ、そうよ」


 そう言って、少女が振り返る。


 彼女は、二次元の世界から出てきたかのような美少女だった。


 子猫や子犬のような、可愛らしい顔つきで、首が見える長さの漆黒のショートヘアーの彼女は、健全な男子高校生でもすぐさま襲いたくなりそうなくらいの美少女だが、『お前の人生、俺のもの』と書かれた謎の黒いシャツが、彼女の魅力を半分以下まで減少させている。


 何? この子?

 この子が誰かは分からない。それでも、関わらない方がいい、やばい奴だという事は分かる。


「お前! 私に恋しなさい。さもないと死ぬわよ。私が!」

「は?」


 愛の告白? それとも脅迫?

 どっちだろ?


「何を言ってるの?」

「私に恋をしてと言っているのよ」


 うん。やっぱり関わらない方がいいタイプの奴だ。


「いきなりそんな事言われても……」

「つべこべ言わないで。私に恋をするのか、しないのか、どっち? 早く決めて」


 僕は一刻も早くこいつから離れたい。その一心で「断る」と言った。


「うん。そうなのね。なら帰っていいよ」


 あれ?

 思っていたより、あっさり帰らせてくれるんだな……。

 引き止められるかと思っていたけど……

 まあ、いいや。早く帰ろ。


 僕は速足で校門に向かう。


 少し歩いてから、少女の方を見る。


 あの少女は、近くに生えている木にロープをかけ、首を吊ろうとしていた。


「え!? ちょっと、何しているの!」


 僕は少女を体当たりで吹っ飛ばした!


 少女は数歩よろめき、うつ伏せに倒れた。


「えっち……」


 そう言って少女は、恥ずかしそうに両手で胸を覆いながら、起き上がる。


「え?」


「今、胸に顔を押し付けたでしょ」


 少女が頬を赤く染めて怒る。


 しかし、冤罪である。僕はそんな事をしていない。


 言われてみれば、少女に体当たりをした時に、僕の頬が、暖かくて柔らかい二つの何かに挟まれたような気がするが、断じて気のせいである。


「それより、どうして首を吊ろうとしたんだよ!」

「恋してくれないなら、死ぬって言ったわよね? 有言実行しようとしただけ」


「そんな簡単に死のうとしないで!」


 少女を全力で睨みつける。


「君はそんなに僕が好きなの?」


 ちょっと気になっていることを聞いてみた。


「自惚れないで。

 お前みたいに、目つきが悪くて、寝癖だらけで、運動が出来なさそうで、友達が少なそうで、背が低くて、長所が顔が微妙にいい事しかない奴なんかを、好きになる女性ひとなんて、世の中広しといえども、いないわよ」


 ギャアァァァア!


 酷い。酷すぎる。

 いくら何でも言いすぎだよ。


「あなたも自覚しているわよね?」


 もうめてよ!

 僕のMメンタルPポイントはもうゼロだよ!


 ……………………はあ。


 僕の中で、何かが壊れた。


「ねえ、そのロープを貸してくれない?」

「嫌だ! このロープは私の大切なロープよ! あんたには貸さないわ!」


 少女は大切そうにロープを抱いて宣言した。


 いっそのこと、今ここでこの子を吊るそうかな?


「あ! そうだ。あんたは私に首を吊るなと言っていたわね。なら、私に恋しなさい。そうすれば首吊りはしない」


 来た!

 告白と脅迫のミックスが!


 さあ、僕よ! 何と答える?


 ここで断るのは容易い事だ。

 しかし断れば、明日くらいに彼女が首を吊った状態で見つかるかもしれない。


 理由は分からないが、彼女は本気だ。


 ああ、もう! こうなったらどうにでもなあれ!


「わかったよ。僕は君に恋してあげるよ」


 あ、言っちゃった。


「本当か! なら早速、心中するぞ!」


「はあ!? 僕は絶対にそんなことしないよ!」

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