5 ドン引きオンリーワルツ


 母親が部屋をノックした。そして返事をする前にドアを開けてくる。

 これは俺にとって、あきらめて受け入れた日常である。

 俺には「部屋はノックして、返事がきてからあける!」と張り紙をする勇気も無いのだ。張り付けた時にどんな形相で怒られるか、想像するだけで身震いがする。

 ドアが大きく開くと、母親はお盆にコップとペットボトルのお茶を持ってきていた。人の目に敏感な母親が考えた、気の利く親切な配慮である。ありがたく受け取ろう。

 その時、一瞬だけ母親とレイメイの目があった。レイメイのことなので何か突飛な行動や発言が飛び出し、それに対して常識と道徳を愛する母が激怒するのではと寒気がした。

 緊張のあまり息を吐けず呼吸が停止する。

 が、互いに軽く会釈しただけで終わった。

「ゆっくりどうぞ」

 何事も起きず母親は戸を閉め退場する。俺の肩は重荷が抜けたように沈んでいく。息もフゥと吐いた。

 ……緊張しすぎかよ。

 レイメイが狂ったイントネーションで語るまでもなく、今の俺はアホらしく映っている。

 たとえ母親とレイメイが喧嘩しても、横に居る俺は気を病まず、ヘラヘラしててもよいのだ。そうなったらなったで、好きなだけ喧嘩させればよかろう。適当なタイミングで母に一言二言謝罪し、レイメイを帰らせるだけで解決するのだ。

 極端に言えば、口喧嘩で命を取られはしないのである。俺はその喧嘩の傍観者で、参加すらしていない。よほど変な行動を起こさなければ、傷も負うまい。

 なのに俺は、崖が深い高所で綱渡りでもしてたかのように、神経を集中して気を張っていた。

「小心者だねぇヤマイくん」

 まるで威厳を持った先生のような口調で、わざとらしくレイメイは指摘した。

「どうなるかと、ひやひやした」

「うむ、心配してくれてありがとう。そのまま随時、僕らに対して悩みや心配事を抱えたまえ。くっく」

 レイメイはそのままコップにお茶を注ぐ。慌てず零れないようにゆっくりと。流れる水の音も穏やかに鳴り響く。さすがにレイメイの変人思考もお茶汲みには影響しなかった。安心する。

 だが、レイメイの前で緊張を解けるということは、それほど俺はこの変人に心を許しているのだ。

 俺は一体、希鳥零名が持つどこの何に安心しているのだろう。わからない。

「それにしてもヤマイ、キミが持つ周りに対する臆病さは札付きだ。見ているとこっちも不安になるよ。十日前の入学式でよく倒れなかったものだ」

「……十日前? 昨日だろ」

 俺とレイメイは顔を見合わせた。言うまでもなく二人とも同じ高校の生徒である。入学式が二回も行われるはずが無い。

 これはどういうことだろうか? まさかLDWTが現れたことによって、記憶までも改変されたというのか。

「レイメイ、これは……」

 俺は問いかけた。そこからレイメイもすぐに思いついたのか手を叩く。

「ああ、なるほど。実に単純な話だったね。入学式は全日制と通信制で、それぞれ別の日に行われていたんだよ」

 レイメイがその思いつきに至った瞬間、俺はゾワリと悪感が走った。

「情報の交換は怠りたくないものだねぇ。元々僕もヤマイの風貌に覚えがなかったんだ。でも納得がいったよ。そもそも僕らは別々の課程だったんだ。当然の帰結だよ」

 俺も思っていたことだった。レイメイの灰銀髪と青メッシュは遠くから見てもよく目立つ。だから入学式の時にレイメイを覚えていないのは、不思議ではあった。

 さらにい言えば、入学式翌日にレイメイがオカルト部の部室を私有していたのも違和感だった。だが通信制より入学式が早かった全日制ならば、先に部活もできよう。つまり矛盾しないのである。

 ゆえに結論としてレイメイは全日制の生徒であり、俺は通信制の生徒である。それがバレてしまった。

 俺は怯えた。

 普通の人間は全日制に行くものだ。何故通信制を選んだのか、聞かれるのではないかと。

 俺はその理由を大っぴらにしたくなかった。

「んん? どうしたんだいヤマイ? 僕が嫌なことを言ってしまったかな?」

 レイメイは俺を見ている。そして俺の心境をすぐ見透かした。ああまずい。心臓の鼓動が早くなる。どうか深く入ってこないでくれ。

 たとえレイメイが変人だとしても、そこだけは突かれたくないのだ。

「やれやれ。黙られてしまうとこちらも困るね。ならば話しかけてみよう。どうだい学校は? 友達がいないと辛くならないかい?」

 その友達というキーワードを聞くと、俺の心臓が大きな槌でグシャリと潰されたような圧迫にさいなまれる。

「部活はどうする気だい? 話の趣味が合う人はいるかい? 朝起きられるかな? 学校に行きたいと心の底から思えるかい? 三者面談で『クラスメイトに話しかけている姿を見たことがない』『他人の悪口を平気で言う』『気に入らないとすぐ詭弁屁理屈を述べる。口先だけが達者』『読解力が皆無で人の気持ちがわからない』『社会に出たら通用しない』と付け口されなかったかい? そんな凡庸な教師に対して少しばかりの苛立ちと、義務教育制度の限界を感じはしなかったかい?」

 俺のことを気にしてないのか、レイメイは実に楽しげに雄弁な語りを続けていく。

 その語りの内容は、最初は俺こと山井仲二郎を指しているのかと気分が落ち着かなかったが、段々と違和感が出始めた。

「ありきたりな名言を繰り返すことで他人をたしなめてきた人間達を見て、こうはなるまいと決心し、特別な人間になろうと立ち振る舞いを変え、校則の自由に乗っ取って髪の毛を銀に染めたら、顔を真っ赤にした教師に非難されたりはしなかったかい?」

 その話にはあまりに近似感を覚えさせてくれた。おかげで重くなっていた俺の口は軽さを取り戻し、つっこみを入れられた。

「……それは、お前だろ」

「そうとも!」

 レイメイは待ってましたと言わんばかりにトーンをあげ、言葉の抑揚を強くする。

「これらは希鳥零名が実際に体験した、くだらない記憶さ! さあ今の僕と照らし合わせてみたまえ。友達もいなければ社会にも馴染めない人間は、一体どんな末路を辿るんだろうね。いや、凡庸を愛する彼らとって、僕ら変人が辿って欲しい結末など既に決まっているだろう! 明快に! 実に醜い妄信によって不幸な結果を望まれている! そして僕が成功しても彼らは決して認めようとはしないだろう! そうしなければ、普通と常識と道徳を愛しながら禁欲し続ける人間が肯定できないからだ! それら成功してない人間達が、優秀な知的成功者を憎む心理構図を、僕らはルサンチマン、嫉妬と呼ぶのだよ!」

 どうやら俺のような人間でも、レイメイは楽しい会話相手として持て成してくれるらしい。

 レイメイはまだまだ暇を弄ぶ気なのだろう。その優しさに俺は甘えられた。

「まあ、僕が孤立しているのは、盲目かつ非知的な世間に擦り寄らない、僕自身の行動が原因に違いはない。それぐらいの自覚はあるさ。しかし彼らによれば、『えーなにそのストラップーかわいいーどこで買ったのーおそろいにしたーい』などというセリフを吐けない僕は、コミュニケーション能力が低い危ぶまれる人間らしい。ああそうだとも。そんな他人に同調権力を強いるグループなど、僕は必要としていないからね」

「じゃあ俺と会話しているのは? 必要な行為だからか?」

「うむ。いささか単調ではあるが、ヤマイは返事をしてくれるからね。少なくとも道端の雑草に話しかけるよりは有意義さ」

 その話を聞いて俺は思いがけず想像する。何気なく舗装路を歩いているとしよう。そこで雑草達に対して長々と独り言を雄弁に語るレイメイが居る。おお、これは奇異に見えてしかたがない。そんな光景よりも俺と会話したほうがマシなのは確かに同意できる。

 だが同意できることは、同調しているとともれる。

「ならば俺の必要性は、レイメイに同調することじゃないか。お前が罵った平凡グループと変わりがないぞ」

 ふとした疑問点だった。それに対してもレイメイは、口調を変えず鮮やかに持論を展開する。

「それは誤解だねヤマイ。キミは僕を否定していいし、キミは時たま僕の考えに同意していないよ。そもそもヤマイは僕を変人だと見ているし、それを肯定的には表明していないだろう? 僕がそう受け取っているだけだ」

 事実その通りだった。できれば俺はレイメイのような振る舞いをしたくはない。それはレイメイという人物の否定でもある。

 俺が首を使って頷くと、レイメイは続けて話を広げていく。

「また僕も、ヤマイの全てを肯定しているわけではない。何度も言うように僕は道徳や倫理に縛られたり、凡庸を善とし美徳とする考えや常識が大嫌いだ。しかし、その嫌いな考えをヤマイが持っていることに対しては、許容的であるつもりだよ」

「友人でありたいならば、そういうところは治したいところだが」

「互いに相手を裏切らないのが友人だということかい? 逆だよヤマイ。友は裏切ってなお、友で居られる。たとえどんなにひどく醜い暴力的で問題ある人間であろうが、それを許せなければ友ではいられない。僕の考える理想的相思相愛とは、お互いの悪いところを許容できることだ。どうだいヤマイ?」

「理想的相思相愛、ね。つまりレイメイ、お前は俺に恋愛感情を持ちかけていると」

「残念だが、まだ友情程度だと断言しとくよ。くっくっく」


***


 以後レイメイとの会話は冗長なものだった。普段何をしているかとか、好きな漫画やゲームは何かという話題で話が弾んだ。

 その時思ったことは、俺の想像する一般的女子高生と比べて、レイメイの趣味が男に寄っていた、ということだった。

 少女漫画よりも少年向けや青年向けの漫画に詳しかったし、深夜放映されるアニメも一部だが語り合えた。レイメイは父親が持っていたアーカイブ映像で過去のアニメも見ていて、それも盛んに語った。悪が蔓延るスラム街で精神疾患のヒーローが暴れまわるショートショートのアニメが、特にお気に入りらしい。

 つまり俺とレイメイは趣味が合う……いや、共通の話題としてレイメイが俺に合わせてくれただけかもしれない。

 たとえ話、レイメイが少女漫画の趣味があったとして、俺はそれについていけない可能性がある。それらを上手く回避しただけで、女性特有の話題もレイメイは話せるだろう。

 ブラジャーの話などされたら、俺はついていけない。エロいものは特に恥ずかしいし、免疫もないがゆえ、俺自身もあまり探りを入れられない。

 ひと時の楽しみを得て、時間切れでレイメイは去り帰宅した。

 俺はそこからレイメイと幸せに過ごす日々を想像した……というわけではない。

 レイメイを見送る時、窓からその姿を確認しようとしたが、上の屋根から人の足音が聞こえてきた。

 その時一瞬見えたのが、黒いマントの端と刀の鞘である。

 教室で俺を睨みつけていたLDWTの住人、シャンク・ダルクに違いないだろう。

 まさか家の屋根にまでやってくるとは思わなかった。とするならば、俺とレイメイの会話もシャンクは聞いているのではないか?

「……シャンクさん?」

 一人ぼっちの自室で少し呟いてみる。

 立場上、俺は彼女を作り出した創作者ではあるのだが、敬語気味のトーンをつけずにはいられない。

「居るなら、少しお話しても問題ないですよ……?」

 それでも返答はない。居るはずであるが何度話しかけようとしても返事はなかった。

 しかたがない、今はあきらめよう。特に重要なようがあるわけでもないし、学校に行けばまた会える。その時に話し合えればいいだろう。

 俺はそのまま、家でひと時の日常を過ごす。監視されていることは気乗りしないが、邪魔もできない。いつも通り過ごすほかないだろう。

 思い返せば、高校生活が始まってからイベントが盛りだくさんだった。

 レイメイの尖った性格は馴染めば問題ないが、心配なのはLDWTの影響。

 できれば何事もなく平穏な世界が望ましいのだけども……そう思いながらベッドに伏せる。心地よく睡眠を取り、次の日を迎えた。

 朝は予報通りの快晴で、暖かい春風が吹く気持ちのいい天気になった。

 習慣づけようと朝食を残さず食べ終えて、俺は学校へ向かった。

 通信制の生徒は無理に毎日学校へ行かなくてもよいが、俺自身は社会に適応するための訓練として、毎日通うことを目標にしている。今日も体調に問題はなさそうで、ちゃんと行ける事ができた。

 他人にとっては低い目標かもしれない。でも俺にとっては高さのある超え辛そうな立派なハードルなのだ。恥ずかしいけれど、今日もそのハードルを越えられた自分を褒めておこう。

 そう思いながら校門をくぐり学校の敷地内に入ると、なにやら独特なイントネーションと妙な発音リズムの会話が聞こえる。そこからさりげなく離れようとする人々。俺は気になって、会話が聞こえるほうを見る。

 生徒達が通る玄関前の庭園、そこには堂々と、まるで踊っているかのように逐一手足を動かしながら熱弁を振るう、希鳥零名がそこにいた。

「そうだとも。あれは確かに『この本における反知性、馬鹿、愚か者の定義とは、客観性を軽視して自分が欲しい答えや考え方ばかり追うことである』と書かれていてね。まあ、それはいいんだ。そのあと、本の中身では馬鹿と愚か者を羅列して『こうはならないように』と警告するのだが、これがひどい有様なのさ。『このような主観的主張は通るはずがない』『こんな考え方は客観的でない』『我々からすればおかしい』『誰もがそう思うだろう』『この本を読んでいる知的読者もそう思うはずだ』……本当にそられだけが理由づけなのだよ。他に何も理由がないんだ。恐ろしくひどいモノ代物さ。今でも書店に並んでいることが我慢ならないよ。客観性を成り立たせるために『ぼくたちは きゃっかんてきに そうおもいます』とだけしか言えない反知性主義者はどうにかならないものか。ああ悲しいよ。あのような本を読んでしまった僕自身に失望を感じる。見つけさえしなければ、こうして草木に話しかけることもないだろうに」

 短めの灰銀髪を凛々しく揺らし、時たま青で塗られた一本の前髪を手で払いながら、赤の瞳を輝かせ、無人の自然達に議論をふっかけていた。

 もちろん花壇達は何も答えることなく、ただそよ風に揺られるだけである。にもかかわらず、レイメイはいつも通りに喋り散らかし、そしてどことなく満足げだ。

 頭のネジが外れすぎている。通り過ぎる他の生徒達も一度はレイメイを見て、しばらくしてまたもう一度見てしまう、そんな強烈な光景だった。

 俺も話しかけるタイミングを図れない。というか、こんな変人と話さないほうがいい気がする。話しかけたほうが悪いだろう、これ。

 他の生徒達と同様に、俺は無関心を装って通り過ぎようとした。が、踊るあまりに勢いもあまって体を振りぬくレイメイに、見つかってしまった。

「おおヤマイ。今日はいい天気だね。雑草に言語を理解する能力があるか否かを、この僕が実証しようと試してしまうぐらいに、とんでもなく心地よい気候だよ」

 レイメはいささかも静かさを出さずに、いつもの調子で話しかけてくれた。

 無関心を装いたい。無視して去ろうとも思ったが、レイメイの笑顔を見ると無下に扱えなくなる。

「なにしてるんだお前……」

「なにって? 見てのとおりだよ。草木に独り言を呟きながら奇妙に体を動かして、自分の世界観をアピールしているところさ」

「ファンタジーな交信術でもやってるのかと思うぞ。危ない奴にしか見えない」

「そうだとも! そうだろう、そうだろう」

 レイメイは頷きながら共感を示す。だが俺は全く共感できていない。ああそうだとも。レイメイとはこんな奴なのだろう。

「僕は奇人変人として見られたいからね。誰にでもわかるように大声で草木に話しかけることによって、目的を達成しようとしているに過ぎない。これらのことは事前に先生達へも説明済みだ。なんとも言えない表情をされたが、止められはしなかったよ。ああそんな理解者が先生でよかったね。僕は運がいい」

「じゃあ、実際に雑草と会話をしているつもりではないんだな?」

「そのように見られることは十分考慮済みさ。大丈夫だよヤマイ、この程度のよくある奇行は子供だってやっている。精神鑑定の必要はない」

 そう言ってレイメイは、緩やかにくるりと回って周囲に自分をさらけ出す。

 確かに子供が大人達を気にせず、はしゃぐのはよくあることだ。

 だがレイメイは俺と同じ高校一年生のはずである。さすがに草木やチューリップに向かって話しかけるのは、恥ずかしくなかろうか。

「俺も同じ変人として見られるだろうが」

 俺は少し理屈をつけてレイメイの奇行を止めさせようとする。

 だがレイメイは、これまたわかりやすく首を斜め下前に傾けて、反論をしはじめる。

「ふむ、ヤマイが周囲の目を気にしすぎていることはわかっているさ。けど、ヤマイが僕と接していても『変人と接せれる心優しい人間』という風に周囲は受け取ると思うのだが、違うのかい?」

 ぐっ。即座にレイメイはポジティブな人々の目線を伝えてきた。もっともらしく聞こえてしまう。

 俺がとっさに考えだした理屈は、他人に変人と思われたくない怯えだ。くそう。議論でレイメイには勝てないのか。

「ところでLDWTは読み終えたよ。未知の文化が詰まった内容だから、実に読み応えがあったね」

「……なにい?」

 嘘だ。中身が無いとはいえ、LDWTは一日で読み終えるには、中々の文字数があるぞ。

「非常に明快かつ、作者にしかわからない表現の連続だったから、逆にスラスラ読めたさ。そしてキミが隠したいという理由を、一字一句読むたびに察したよ。くっくっく」

 レイメイは口元に手を当て、ひとしきり笑いを抑えながら語り始める。

 ちょっと待て。ここは学校で、周りにはたくさんの学生達が居てだな!?

「まず、セリフの前に喋っている人物の名前が付いてしまうような、台本形式の文体だね。もはや小説では無いが、ネットや漫画でも健在の文化さ。文字が大きくできないのに擬音のオンパレードで、逆にシュールさがウケたよ。黒獅子銃一郎という作者ヤマイの願望を叶える主人公だが、様々な非行を繰り返す割には何かと道徳的すぎるところがあって笑えたね。大金を得るとすぐ募金に走る、突然現れて戦場をかき回し『普通助けるだろ』と味付けもない道徳的名言を繰り返す、かと思えば空き缶をポイ捨てする不良を平然と拳銃で撃つ。これじゃあ狂人と評されてもしかたがないね。その場の気分によって圧倒的な力を振り回し、世の中をかき乱す幼稚な自己中心的主人公さ。ああそうだ、神殺しと称される"五秒の早撃ち"とはいったいどんなものなのか見てみたいよ。いや、これは実際に見られるのかな? あと頻繁にキャラクターの視点が変更されているね。それも山田、大谷、坂本など平凡な名前のキャラクターが多くて困ったよ。他の登場人物は戦場堂やら不知火やら奇抜な名前が多いのにねえ。主人公は平凡な名前でなければならないルールでもあるのかい? 真実機関は『真実を保護する』ことを目的としているが、一体どんな真実を保護しているか実態がまるで描写されてないが大丈夫なのかい? まあ登場する組織のほとんどが、腐った上層部によって機能しなくなっていることはわかったけど、逆に敵と味方の区別がわからなくて困ると思うよ。あと中立組織だけが少数精鋭で上層部という概念も無いのは、ヤマイの願望が反映されていると疑ってしまうね。真実解放や虚実解放というネーミングセンスには特に突っ込む事もないかな。言葉の響きはそこまで悪くない。だが唐突に真田"辛"村やシャンク・ダルク、ナ"ン"ポレオンなどの歴史登場人物が現れるのは、一体何に影響されたんだい? あと、この物語は女性がほとんど登場しないね。ヒロインのポジションに就くキャラクターも不在だ。これがもしキミの願望が色濃く反映された物語と言うのなら、キミには恋愛願望が無いと言えてしまうよ。それでありながら実に優しい世界だ。みな戦い傷を負うが誰一人死ぬ描写は無いし、何事も無く復活するキャラクターも多い。ゆえに死者を蘇生する呪文も無いね。ワンダーランドと評するヤマイの表現も理解できるよ。まさに天国さ。まあ終始擬音をパレードしながらバトルしてるから、それがテーマとも言えるのはわかるが、あまりにも読み取りにくいね。最後にひとつ、僕が面白かったのは結末かな。突然創造神が現れて、ありとあらゆるキャラクターがバトルロワイヤルを嗾けられて最後には全滅してしまうのだけど、そこに何の脈絡もなく宇宙警察という新組織を名乗る男が新登場して、その人物が嶋という日本人の名前だというのだから面白くてしかたがない。さらにその嶋が創造神を打ち倒して全て解決してしまうんだから笑えるよ。あまりにも都合が良すぎる先鋭的デウスエクスマキナだ。神業と言っていい。商業ではありえない、絶対見られない展開と世界が披露されていて、

 それらを見られたことは実によかったよ!」

「や、め、て、く、れ!!」

 周囲を気にせず感想をまくしたてるレイメイに対して、俺も気にせずそう叫ぶしかなかった。

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