6 雄叫びスモールハート
「山井ー、あの青メッシュのコと、どういうカンケーイ?」
レイメイと別れた後、教室に入ると頭を金髪に染めている中村が軽はずみに聞いてきた。
この中村という男は気軽に誰とでも同じ距離で話しかけてくるので、どうもコミュニケーション能力が高くみえる。
耳にピアスなどをつけており、制服はピッチリ着ずにグシャグシャ。紙がヒラヒラしそうな頭空っぽの雰囲気を中村は醸し出しているが、そのチャラい感じがどんな人間とも分け隔てなく接せれる長所なのかもしれない。
「あ、いや、その……」
俺は一言二言慌てめいて、押し黙る。
はて、レイメイのことをなんと表現すればよいのだ。
まず彼女ではない。まだ出会って二日であるし、友達とは言い難い。ならば知り合いあたりが妥当だ。
だが知り合いと主張しても誤解されるのでは? では誤解を生まない伝達方法を考えなければ……
「ちょっち山井ー、黙っちゃうとか複雑なん?」
俺の沈黙に耐えかねたのか、中村のほうから声がかかった。
「え? ああ……うん」
俺は曖昧な返事しかできなかった。中村も何かを察したのか、声を出さずに「ほーん」と口だけを動かして、自分の席へと歩みを進めた。
わざわざ中村のほうから会話を提供してくれたのに、このザマである。
というかレイメイのことなど、嘘でもいいから友達だと言っておけばいいではないか。友達の定義を妙に考えすぎだ。
俺はまだ、人との会話に恐れを抱いている。そのせいで上手く話せない。
それらを踏まえると、この俺山井仲二郎が、レイメイに対して遠慮なく話せているのは奇跡に近い。いったいレイメイのどこが俺の恐怖心を溶かしたのだろうか。
レイメイは「変人だと思うがゆえに」と言っていた。変人に何を言っても無駄だという一種のあきらめと、変人にどう思われてもしかたがないという許容の心だと。
許容、開き直りが足りない。そもそも俺は通信制の高校生であるのに、普通の人間だと思われたいのだ。
……わがままだなあ。
反省を済ませ、その後は予定通り授業が終わると俺はオカルト部に向かった。
部室に入ると、レイメイが先に語り踊っていた。
「理屈が嫌いな大衆達が、暴力と同調による圧力で解決を試みるは当然だろう。たとえどんなに間違っていたとしても、暴力を振るい認めさせ、仲間と同調し多数派の意見だと言えば正当化できていると彼らは思えるのだから……おや?」
今度は裸ではないものの、また一人で虚空と話していた。いつでもどこでも一人で語っているのは、ちょっと引いてしまう。
「やあヤマイ、また会えて嬉しいよ」
歌劇団のように両手を広げ、それが嬉しさの表現だとアピールするレイメイ。カクリと首を横にして灰銀髪も揺らしていた。
くどい。そして見てられない。なんのキャラクターを演じているのだ。
「レイメイ、お前は自分を恥ずかしいとは思わないのか?」
俺は今更な疑問をぶつけてみると、レイメイは堂々と腕を組んで答える。
「うむ。実を言えば、少しは恥ずかしいね」
「ええぇ……」
ちょっと驚く。俺がよく知っている恥ずかしい素振りというのは、大抵本人は恥ずかしい自覚が皆無である。
それゆえに躊躇なく「真実解放!」などと叫んで無限に世界を広げたがる。レイメイもそれに部類する人間だと思っていた。
「恥ずかしいのなら、なんでやるんだよ」
「くっくっく。他人からの評価を必要以上に気にする、ヤマイらしい考えだねえ。そんなヤマイくんにはシュークリームをあげよう」
冷蔵庫から白い箱を取り出すレイメイ。パカリと開けると、ふんわりとした西洋お菓子。甘いものが好きなのだろう。
俺もありがたく一つ貰う。レイメイも机に座り、両手でクリームをモグリと食う。その様はなんだか子供っぽくて、普段の理屈好きなレイメイとはギャップあり、かわいらしい。
でもそれはちょっとだけのひと時。レイメイは静かに食い終わると、再び語りを広げ始める。
「オホン。前から言うように、僕は特別な人間や変人になりたいんだ。ならば偉業を打ちたて成果を出し、多大な賞賛をかき集めればいいのだが、それには時間がかかる。そこで、手っ取り早い手段として、独り言を長々と喋り続けて、それで特殊な人間だと言い張るのは、麻薬的中毒に溺れてしまうぐらいに手軽なのだよ。その手軽さに甘えていることは、恥ずかしいと思っているさ」
「賢く見られたいと思って、英字新聞を読んでしまうような?」
「うむ。授業で英語を勉強すれば賢さを得られるのに、わざわざ教室でのみ新聞を読んでしまうと滑稽さが強調されるだろう。英語の勉強に貪欲なのかもしれないが、ならば卒業まで英字新聞を教室で読む努力を見せて欲しいものさ」
そう言いながらレイメイはバッグから灰色の新聞を取り出す。見出しには大きいアルファベット。つまりは英語。
まさか卒業まで持っていく気なのかコイツは!?
「ご正気で……?」
「英語ができなければ、この小さい島国に永住することになるからねぇ。くっくっく」
続いて小さな英語辞書も取り出して見せびらかすレイメイ。
分厚くないのは軽さを考えてのことだろう。分厚く重い辞書を毎日通学して運ぶのは苦痛であるからだ。
ますますレイメイが英語を英字新聞を読んで勉強しているリアリティが増している。本気だ。ご正気であられる。
「お前は将来、何になりたいんだよ……」
「そんなものは決まっていないさ」
さして悩むことなくレイメイは言った。
「むしろヤマイ、キミは何になりたいんだい?」
「……え」
コイツは切れ味のいい返しをされた。将来なりになりたいか、だって?
そんなことは全く考えていない。目の前の学校に通うだけで精一杯だ。
強いて言うなら、それなりの年収とそれなりの幸せを享受できれば……
「おや。悩むことないじゃないかヤマイ。キミは大金を得たら恵まれない子供達に寄付をして、銃を手に入れたらそれを使って悪い人間とやらを討伐し、交渉術やプログラミング、屋根と屋根を飛んで渡れる運動能力など多彩な才能を持ち合わせた、神さえ殺せる主人公になりたいかったんじゃないのかい?」
「ああああやめろやめろ!」
「あと名前を黒獅子銃一郎に改名……」
「だぁー!!!」
俺は悶え苦しむ。消してくれ。いますぐ消してくれえ。
「何を恥ずかしがってるんだい?」
にこやかな顔でレイメイが追い打ちをしかけてくる。勘弁してくれないだろうか。
「だって、そりゃ、恥ずかしいだろ」
「どこが?」
「全てが!!」
冷静さを欠いて語彙も欠如する俺を見て、レイメイは目を閉じながらウンウンと頷く。ついでに指も揺さぶりながら口を開いた。
「つまり、過去に思い描いていた理想の自分かつ将来像が、あまりに幼稚な内容で成就する要素が皆無であり、人に聞かせれば失笑されそうで、ちょっと困り顔で『スバラシイ夢デスネー』と棒読みで言われると思ったら我慢ならない、と?」
俺は削岩機のようにガクガクとアゴを上げ下げして同意する。
「確かに身の丈が合わない願望を述べるのは、醜いし滑稽に見えよう。しかし、それを条件反射で笑いものだと感じるのはいただけないね。キミは人の夢や願望を全て馬鹿にする気かい?」
「だって、笑いものだろ」
「はあ」
その「はあ」はレイメイにしては熱を持たない気の抜けた声だった。
しかし、そこから矢継ぎにレイメイのたとえ話が並び語られる。
「動画配信で生計を立てることや、女性や男性への性別転身、異世界への転生、漫画家や作家になること、年収三千万で顔も性格もイケメンな夫を求めること、時たまメイド服を着る黒髪ロングの女子高生といちゃつくこと等を願望にするのは、馬鹿だと?」
なんだその羅列は。
「全部醜いし、滑稽そのものじゃねぇか!」
「……はあ」
レイメイは大きくため息を吐いた。失望の感情が見て取れる。もしかして、癪に障ってしまったのだろうか。
「全ての願望、夢をあざ笑う。ならば妥当な夢や願望とは何か。妥当とは何か。行き着く先は道徳や常識、普遍なものになる。つまりは普遍を愛し、普遍であることを美徳とする大衆だ」
大衆。彼女がもっとも忌み嫌うものの呼び名だ。
「大衆は普通でなければ生きていけず、普通でないものを悪とする。普通の基準は経験則で、都合によって思い通りに可変もできる。そうして大衆は理論も知性も意思なく、感情のみで言葉を使い分け、省みもせず自分を守り、他人を思うがままに使おうとする」
レイメイの語りはくどさを無くし、駆け抜けるように素早くなっていた。その勢いで俺も全てを飲み込めない。
「普通であることの、何が悪いんだよ?」
「……」
レイメイは黙った。俺は寒気がした。
あの雄弁かつ他人を気にせず語り続けるレイメイが、俺を睨むだけなのだ。
言葉を長く続け語る頭の回転が速いレイメイが、言葉を選んでいるのだ。
しばらく硬直状態が続くと、レイメイがパンと音を立てて手を叩く。
そこからは、怖気がましい体の動きをする。
どこからどう見ても、普通。ありふれた体つき、仕草、行動。吐息に変わる。
「あきらめたらそこで終わりよ。でもあきらめも肝心だよ。わかる人にはわかる。わかるときがきっとくる。誰にでもわかる。誰でも知ってる当たり前。理解できないの、ありえない。あなたのためを思って言っているのに、あきれて物が言えないわ。理解に苦しむ理解ができない。わからないし、わかりたくない。理解力がないもの。よほど暇なんでしょう。ああ言えばこう言う。屁理屈ばかり並べてる。あなたには言われたくない。何を言っても無駄だもの」
一つの言葉に一人の人間が演じられていた。老人若者子供男女が分けられている。全てが普通と感じれそうな人間で、全てがレイメイ本人ではない口調と抑揚。
「育て方が悪い。中途半端が一番悪い。バランスをよく考えないと。それは自分で考えなければならない。私の考えではどう考えてもどうかと思うわ。決して許されるものじゃない。信じないのもあなたの勝手。自分の目で確かめなさい。そんなこともできないの? 人生そんなに甘くないぞ。世の中そんなものだから。それ以上で以下でもないし、一言言わせてもらうけれども、否定からは何も生まないし、答えが一つなのはつまらない!」
その様は俺も聞いたことがあるセリフ達。どこでも何度も聞いたような言葉。
今、レイメイは大衆を演じている。彼女が定義する凡庸で普通を愛する人達に成りきろうとしているのだ。
「人の……気持ちを……考えろ!!!」
最後は眉間にしわを寄せて、怒り狂うあまり言葉に詰まりながら机を叩く。からになった箱が飛び跳ねた。
少し驚きだ。迫真すぎる。
「……考えてないのは、お前だろ」
ちょっとした遊び心でそう返答してみると、瞬く間にレイメイはいつもの調子に戻っていく。
「その通り。いつでも自分にとって心地よい発言が来るように配慮されると、思い上がらないことだねぇ」
やりきってやったと、自慢するように細やかな笑顔へ、いつの間にかレイメイはなっていた。
「ともかく、恥を恐れて自分の欲求を叶えなかったり、なにも挑戦しなかったりして、いざ就職の面接になると『私の長所は何事にも積極に取り組めることです』と言うような人間には、ぜひならないでくれたまえ」
「どうして?」
「……凡庸な人間になりたいのかい?」
レイメイは目を細めて渋い表情を作る。
俺は想像する。凡庸な人間とは、平均的で文句は無い。
しかし、レイメイはそう思っていない。凡庸と表現する時点で、優秀や特別よりも劣っているからだ。だからレイメイはそうなりたい、優秀でありたくて変人を目指すのだろう。
だからあんなにも、凡庸な人間達が発する言葉を悪意を込めて並べ続けて、その醜態を晒したのだろう。
単純な例題をあげよう。何事にも挑戦しなかった人間が、挑戦することは大事だと語る様を見てなにを思うか。
「あんまりかしこくなさそうだ」
そう結論づけるとレイメイは優しく息を吐く。
「うむ。理解してくれてありがとうヤマイ」
その時のレイメイといったら、嬉しさに揺れて満悦な笑顔な物で、噛みしめたくなるほどかわいらしい。
なんだか美人に見えてくる。口を開けば残念だが、表れる感情はとても豊かだ。
「では、ヤマイのような臆病な人間に、ひとつ言葉の呪いをかけておこうか」
レイメイは手の甲を差し出し、くるりと反転させ指を開く。
「恥を恐れるな。大衆受けする名言に改変するならば……黒歴史を恐れるな」
自己主張の強い命令なことだ。そう振る舞うさまが既に恥ずかしいのだ。守れなさそうな気がしてならない。
「ああ長話して忘れていたよ。実はヤマイに渡していないものがあってね」
レイメイはポケットから新聞記事の切り抜きを出して、机にそっと置く。
それは昨日、県内の工事現場で爆破が起きたと知らせる文面だった。
死者怪我人は出なかったようだが、作業に影響が出るぐらいに現場は荒らされたらしい。
「ネットにアップされた本文の内容と照らし合わせても、間違いなさそうだ。これはLDWTで起きた事件の一部が現実化している証拠のひとつだよ。主人公の黒獅子銃一郎と天使ホワイトウイングが決戦するシーンが再現されていると予想できる」
レイメイの言うとおり、LDWTには黒獅子銃一郎と白の天使が戦うシーンがまだ存在していた。そのひとつに工事現場を舞台にしているものもあった。戦闘は『スパーンジュバーンガギギギギイン!』と描写されてはいるけれど。
「偶然食卓でこの記事を見つけてね。ヤマイには伝えておこうと思ったよ」
そう言ってレイメイは前髪をサラリの退ける。
わざわざ俺に見せるためだけに新聞の記事を切り抜いたのか。ご丁寧だ。食卓でハサミを持ちながら新聞を切り抜く、楽しげなレイメイの姿が想像できる。かわいい奴かお前は。
「今後もこのような事件は起きるだろうね。どうするヤマイ?」
「しんどいな。一部分とはいえ俺はその事件の関係者だ。責任を感じる」
「真面目だねえ。銃や刃物を作る武器職人達は紀元前からその存在を許されているだろう? だというのに今世紀、未だに罪意識を感じるヤマイの道徳観には嫌悪と感服を覚えるよ。まったく。キミはこのような事件を引き起こしてしまう自分の力をもっと誇るべきさ」
レイメイは大げさな脈音を鳴らすように語感を上げ下げしながら俺を褒める。
皮肉ではないのだろう。だが世間体を気にしてしまう俺は「この犯罪者はワシが育てた」と口が裂けても言えないのだ。
「俺の善悪はともかく、こんな事件は起きないほうがいい。無関係の人間が巻き込まれる前に対策すべきだ」
「とはいえ僕らにできることと言えば、警察に事情を話して、頭がおかしい人間だと思われるぐらいだよ。それはそれで、変な人間として見られたい僕は構わないが」
レイメイが言うとおり、頼れる人間が少ないのは確かなことだった。
こんなことを協力してくれるのはレイメイのような変人だけで、公的機関は事が起きてからしか協力してくれないだろう。
「確かに俺達は警察や政治家を動かせない。だか真実機関ならどうだ?」
「ほう。それは名案だね」
真実機関は、俺が創作したLDWTに登場する架空団体である。
物語後半で上層部が腐っている描写が登場するが、一応は秩序や治安を保つことを目的としている組織だ。現実化しているのであれば、話が通じるかもしれない。
「そもそも、俺が書いた超能力や魔法が飛び交うバトル展開に現実の人間は対応できない可能性が高い。なら同様に俺が作った架空組織に頼むほうがいい。毒を持って毒を制す、だ」
「うむ、ヤマイにしては合理的な判断だね。ただ、三桁の数字を電話番号として入力するよりも、困難な方法で接触しなければならないよ?」
「一声叫べばいい。俺を監視しているシャンク・ダルクが居る。彼女は真実機関のメンバーだ」
「では叫んでくれたまえ」
……え?
「どうしたんたいヤマイ? 叫べば来ると言ったのはキミだろう?」
あのなレイメイ。俺にも恥ずかしいことがあってだな。
「ははあ、なるほど。この部屋には僕達しかいない、とはいえシャンク・ダルクは外に居る。つまり彼女を呼びかけるには、外に届くような大きい声を出さなければならない。それを他人に察知され、変人だと思われるのを恐怖だと感じているんだね?」
うんうん、そう……って俺は何も言っていないぞ!
「大丈夫だよヤマイ。開き直ればいいのさ。そうとも。キミは突然オカルト部の部室で『シャンクーー!!!』と叫ぶ変人なのだから、何も問題ない」
「問題あるだろーが!!」
「そうだ! その調子だよヤマイ! もっと声を大きくして、シャンクに伝わるような語句で叫ぶんだ!」
「そういうことじゃねー!!!」
いつのまにか俺達は声を荒げて言い争っていた。
「何を恐れているんだい!? キミは僕と同じ変人だろう!? 恐れずそう思い込みたまえ!!」
「恐れるわ!! 恐れて思い込むことさえできんわ!!」
口論していると、突然窓が勝手に開く。
そこには黒いマントを羽織った赤髪の女性。左目に三つの切り傷があるシャンク・ダルクその人だった。
「……」
シャンクは黙りながら部屋に踏み入る。その鋭い眼光は同年代とはとても思えない、戦人の目である。
俺が作ったあまり意味を込められていないモブキャラクターの気迫は、本物なのだ。
「山井仲二郎、私はお前を監視している。お前の興味深い戯言も把握済みだ。内容も上に報告してある」
シャンク・ダルクは手馴れた軍人のように重い語音で話す。軽やかな敬語を想定していた俺の印象とは一致しない語りだが、相応に思えた。
「そして私が見る限り、山井仲二郎は特筆すべき能力も無い一般的な人間に過ぎない。確かに預言者かもしれないが、我々を作り出した創造神とは思えない」
「ふむ。LDWTを実現した、いわば神とも表現される存在には僕も興味を惹かれている。だが少なくとも、ヤマイはその力に自覚的でない」
「俺は設定を作ってネットに垂れ流しただけだからな……」
「ゆえに真実機関の上層部は、お前達に協力する義理も得もないと判断した。むしろ、その予言内容をどう扱うかで上層部達は大いに揉めている。末端の私に構ってくれさえしないだろう……だが」
そう言いながらシャンクは刀の鞘を手に持ち、俺達へ見せ付ける。
「私が監視という任務を全うするために、お前達を助けてやらんこともない。死なれては監視もできないからな」
シャンクは大真面目に人情を露わにする。俺はシャンクの仁徳を噛み締めた。
「ぶっふ!」
が、レイメイが突然吹き出す。どうした。
シャンクが協力を申し出るのは、ありがたい助け船だろう。なぜ噴出したんだ。
「くくく……よかったねヤマイ。キミの物語が妙に道徳的なのが功を奏したようだ。ぷぐっ」
口を押さえて小刻みに震えながら笑いを抑えるレイメイ。セリフがツボに入っているのか?
シャンクの善意は俺の心にちゃんと響いているのだが、レイメイは堪えるほど面白いらしい。笑いどころがわからない変人なことだ。
「戦えるシャンクが味方に加わるのなら心強い。俺達は今のところ口先だけだからな」
シャンクもコクリと頷いてくれた。いい奴だ。
そして悪い奴であるレイメイは、やっと笑えを堪え戻ってくる。
「ぷくく……ああぁうん! そうだとも! 僕達二人だけでは次に展開されるであろう、突然戦国時代からやってくる真田"辛"村が、燃え盛る岩石を降らして学校を破壊する様を止められないからね!!」
「だぁーっ!!」
俺はまた、綺麗な心に毒矢が刺さったような、もがき苦しい思いになる。
「突然戦いの場に現われては『勝負』と叫んで暴れまわる、ありきたりな舞台装置の戦国武将に、ヤマイはどんな願望を託したんだい? 既に死んでいるはずの過去の偉人が、ヤマイの悩みや欲求に賛同でもしたのかい? まるで好きな漫画のキャラクターが、自分の人生を肯定してくれると思い込み、その過程を妄想として発露してしまうように!!」
「やーめろやめろやめろ!!」
行き辛かった楽しくない学校を、妄想の中で破壊するという恥ずかしい思い出は、やはりしまっておきたかった。
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