ご神木 2
加勢の上がやって来た日から、もりや不動産は不思議なくらい大忙しだった。
通常では12月に物件を探す人は少ないはずなのに連日、客が押し寄せて来た。
クリスマスが迫りラジオからはクリスマスソングが流れ続けている最中に接客に追われる毎日だった。
「あの、最近・・・なんか、声が聞こえるんですけど・・僕、大丈夫でしょーか!?」
営業の森田が訴えた。
「あ、僕も聞こえます。」
山鹿室長が同調した。
「ヨキキャク、ヨキキャクってヤツ」
櫻田店長と藤田も加わった。
「そーそー、ヨキキャク アシキキャク!!」
「もしかして、あの物件から来た五穀豊穣の神の声ですかね?」
鶴子と渕上は少々、驚いた。
「皆さん、聞こえてるんですか!?」
「僕は聞こえません」渡辺だけが不満そうに言った。
「別に聞こえなくでも平気ですよ。て、言うか聞こえない方が静かでいいです」
鶴子が言うと皆が頷いた。
櫻田店長は身を乗り出して鶴子と渕上を見ている。
状況説明を求めているのは明白だ。渕上は鶴子に説明する様に目配せした。
「あ、あの、忙しいのはたまたまです。加勢の上様がいるからじゃないです」
「カカカ、ワタシガ、ヨキキャクヲ ヨンデオルンジャローガ」
鶴子は知らぬふりで続けた
「加勢の上様は五穀豊穣の神ですから、商売繁盛の神ではありませんと渕上さんが言ってます。」
30㎝バージョンの加勢の上が飛び回っている。
パタパタ パタパタ
「カカカ、ナナナ ナンダトーッッ。フチガミドノーッッ」
「ちなみにご神木は現在、小さくてひ弱なのでしばらくの間、私達と現場監督の金城さんが世話をしていますので、声が聞こえても無害なので心配しないで下さい。」
パタパタ パタパタ
パタパタ パタパタ
「シンパイナイ シンパイナイ」
「と、いう訳で、安心して仕事をして下さい」
皆は、分かったわ様な、、分からない様な風に各々の席に戻った。
パタパタ パタパタ
パタパタ パタパタ
「シンパイナイ シンパイナイ」
パタパタ パタパタ
パタパタ パタパタ
「カカカ ヨキキャク キター キター キター」
「お疲れ様です」
現場監督の金城がやって来た。
もりや不動産の親会社MORIホームの現場監督の金城は、ご神木が来てから、足しげく通うようになった。
半ば盆栽(ご神木)を取り上げられた翌日には盆栽を置くための60㎝ほどの台を事務所の勝手口に設置して屋根付きのヒサシを設置した。天気の良い日は盆栽を屋外に置き日光に当てる。土の乾き具合を確認しては水を与えた。
はじめ加勢の上は、仲間を閉じ込めた敵と思っていたが2日とかからず金城が現れると、その周りを喜々として飛び回るようになった。
「あの島津さん、今夜は冷え込む予報なんでよう(盆栽を)室内に避難させて下さい」
「わかりました。帰る前にエアコンを切ったら入れておきます。」
鶴子も金城とは、すっかり仲良しになった。
「雪、降りますかね~」
「冷え込んでますからね。」
「ハヤク エアコン キリナサレ ハヤク エアコン キリナサレ」
「あの、島津さん・・・」
「なんですか?」
「いや、その・・・、島津さん、週末は忙しいですか?」
「あ、はい。週末は神社の仕事があるので私はしばらく無休です」
「そうですか。」
「大丈夫ですよ。年末年始も休まず(盆栽の)お世話はちゃんとしますから」
「あ、すみません。お世話になります・・・。」
「いえいえ、気にしないでください」
鶴子が愛想笑をしている周りを同僚達が、ニヤニヤしながらウロウロしている事に鶴子は気づかなかった。
「ハヤク エアコン キリナサレ ハヤク エアコン キリナサレ」
「加勢の上様、、、うるさいです。」
「もうすぐクリスマスですね」
「お正月も、すぐですね~。雪が降りませんように!」
「そうですね」
「ハヤク エアコン キリナサレ ハヤク エアコン キリナサレ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます