住人3
加勢の上は突然、鶴子と渕上に背を向けて201号室のドアに向かって走って行った。その姿に注目していた鶴子と渕上は自分の目を疑い瞬きをした。
なんと、加勢の上の身長が縮んでいる。
先ほどまでは150cm程の身長だったのに、50cmくらいになっている。その姿は、あまりにも可愛く滑稽で、思わず吹き出しそうになった。
「見て下さい渕上さん、ち、縮んでますよ。ふふっ」
「だめだめ、笑っちゃだめ」
「あれが通常サイズですかね。う、うふふ。」
「ツルちゃん、ダメだってば。うぷ」
気づくと渕上の護法神も、いつもの白猫の姿に戻り、加勢の上の後ろに立った。
2匹と言うには心苦しいが、このツーショットは可愛すぎた。
「あは、あはは。もうダメです。可愛い~から!」
「ふふふシロちゃん、小鳥をおそっちゃダメよ・・・なんて、あはは」
二人が2匹に注目していると加勢の上が、何度もこちらを見て何か言いたそうにする。二人には加勢の上の言いたい事が、すぐにわかった。とにかく深呼吸をして心を落ち着かせてから201号室の前までやって来た。
「このドアを開ければよろしいのですね?」
「そうじゃ、お願いじゃ」
少し前までの威厳はどこへやら・・・。つぶらな瞳で懇願された。
鶴子はドアのカギをバッグから取り出した。
「すぐに開けられますよ。」
「おおおお、御頼み申す。御頼み申す。」
鶴子は201号室のドアを開けて加勢の上の顔を覗き込んだ。
「う、うえ~ん。役立たずの小娘ぇ~。開いておらん。開いておらん」
「ぇ?」
「ツルちゃん、ちゃんと見て下さい。ドアが開けば良いってわけじゃありませんよ」
「そうじゃ、そうじゃ、御頼み申す。御頼み申す。」
加勢の上は必死に渕上に頼み込んだ。
「はぁ~、どうしてドアに結界なんてできたのかしら。」
渕上の言葉を聞いて鶴子はドキっとした。
そして今度はソチラの目をドアの向こうを見た。
ドアの向こうには加勢の上と同じ姿で、もっと小さな加勢鳥の集団がこちらを見ていた。
「ええーっっ。こっち、見てる」
加勢の上と小さな加勢鳥集団を順番に見まわした。
「ツルちゃん、下がっていて。交代よ。」
渕上は一度、ドアを閉めるとドアノブに手をかけて念を放った。
まるでバーナーでドアを溶かすようなイメージが伝わって来る。
カシャリ
渕上は後ろに跳ねのける様にして201号室のドアを開いた。
ドバババ ドバババ パサパサ ドバババパサパサ
ドバババ ドバババ パタパタパタ
羽音を建てて小鳥たちが室内から一斉に飛び立ち空に舞い上がった。
鶴子と渕上はそれを、じっと見送った。
「ん?」
見ると今度は30㎝くらいになった加勢の上が、手すりの上に止まっている。
「恩にきる。恩にきる。」
「加勢の上様も、どうぞお仲間のところへ」
渕上が優しく声をかけると、これまた大粒の涙を流しながら飛び上がった。
パタパタパタ パタパタパタ パタパタパタ
振り返り渕上の顔を何度もみながら少し上へ上る。
パタパタパタ パタパタパタ パタパタパタ
鶴子と渕上は笑顔を絶やさず見送り続けた。
パタパタパタ パタパタパタ パタパタパタ
パタパタパタ パタパタパタ パタパタパタ
「・・・い、行きませんね」
「え、ええ。」
パタパタパタ パタパタパタ パタパタパタ
パタパタパタ パタパタパタ パタパタパタ
「あれはホバリングと言うヤツですかね・・・。」
「ええ。。。」
パタパタパタ パタパタパタ パタパタパタ
パタパタパタ パタパタパタ パタパタパタ
ばつが悪そうに加勢の上がいった。
「上にも仲間がおる。御頼み申す。御頼み申す。」
「早く言って下さい・・・。」
「ぷっ。あはははは」
渕上の返事を聞いて、ついに鶴子は笑いが止まらなくなった。
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