ワタシが?

あるには、ある言われて鶴子はキョトンとした。

なぜならば祖父の清史郎が鶴子に頼みがある時のきなくさい顔をしているからだ。

「え? なに?」

清史郎は頭をかいた。そして鶴子の様子をうかがっている。

「なに?ワタシが手伝える事があるの?」

清史郎が返事をしないでいるので清の顔を見た。

「お父さん」と言いながら清は清史郎の視線に映る様に手を振ってみせた。


清史郎は再び鶴子に問いかけた

「鶴子はあの子を助けたいか?」

「はい。助けたいです。あの子と紀州のご夫婦の為に。」

自然と敬語になった。

こんな孫の姿を見ると、つい微笑んでしまいそうになるのを堪えながら続けた。


「うむ、では話そう。」


清史郎の説明はこうだった。

生きた人間住む世界は現世げんせと言う。そして魂が体に宿っている時に暮らす世界を現世界げんせいかいとか限界げんかいと言う。

やがて人が死して体を離れる魂の姿となりる。これを幽体ゆうたいと呼ぶ。

幽体は現世と全く同じ世界で自由に身動きする事ができる。

もっと言えば幽体の姿も現世のままである事が多い。そして老人の場合は最も若々し時の姿に戻る事もある。この幽体で過ごす現世と全く重なっている世界が幽限界ゆうげんかいである。

普通は幽限界で好きな所に出向き、会いたい人に会い納得すると、さらに霊の世界、霊界れいかいに帰って行くのだが、あの赤子はずっと幽限界に留まっている。

しかも死した時のままの姿で、あのカウンターの上で泣いている。

この子を霊界に帰してやるには母と再会させるしかない。


「お母さんを探せるの!?」

鶴子は思わず立ち上がって清史郎に迫った。

鶴子は胸がドギドキしている。同時に自分の役割について考えていた。

「私に出来る事ってなに!?」

清が「鶴ちゃん、まぁ、まぁ、」と両手の平を見せて座る様に促した。

鶴子は、清史郎の顔を見つめたままゆっくりと腰を下ろした。


「探して見たところ、あの赤子の母親は現世に居ない。そして幽限界にもいない。

せめて現世か幽限界に居れば引き合わせるのは簡単なんじゃが・・・。すでに霊界へ旅立っているようじゃ。」

清史郎は少し空を見つめるようにして目を細めた。霊界を覗き見ている。


「でも、探せるのよね?」


「うむ。霊界は感性と感覚の世界じゃ。そこへ行って赤子メッセージを開放すれば母親が受け止めるはずじゃ。母親が受け止めてくれれば赤子の所へ連れて行く事ができるんじゃ」


鶴子は両の手を握りしめた。



「しかし一人で霊界に行って赤子のイメージを開放するのは危険なことじゃ。

なぜならば、こちらの魂もむき出しになるからじゃ」


「・・・・。」


「霊界は全て感性と感覚の世界。霊界にいる無数の魂達の経験と思念を現生の感覚をもったまま受け取れば、こちらの精神が崩壊してしまう。

わかるか?無数の思念など受け止められる訳がないからじゃ。」


鶴子はゆっくりと頷いた。


「精神の崩壊を防ぐためには赤子の思念を放出する者と、ひたすら防御をする者が必要じゃ。」


「おじいちゃんだけでは・・・、」

「あの子を助けられないから私がお手伝いするってコト・・・だよね?」



「おじいちゃん、神社の掃除じゃないよ?」


鶴子は神社の仕事は手伝ってきたが、見えない世界そのものと密接に関わっている感覚を持っていなかった。だから霊界に行く手伝いをする自分をイメージ出来なかった。


「鶴子、もりや不動産の白猫に会ったか?」


唐突に聞かれた。


「え?シロちゃんなら毎日事務所にいるけど」


清史郎がきな臭い顔で自分を見ている。


「え?どういうコト?」

「あのネコはお前と渕上くんにしか見えておらん」


「はぁ?シロちゃんは動物霊なの?」


「そうじゃ。お前は霊が見えている事すら気づいておらんのじゃろ?」


ぽかんとする鶴子に清史郎は言い添えた

「あの猫は動物霊なんてものじゃあない。護法神じゃ。動物霊だなんて言ったらバチが当たるぞ。」












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