関 良雲
そのころ鶴子の護衛係は青ざめていた。
関
現在は30歳になる。
八犬神社に石を手に持った赤子が生まれた時に結界を守るスタッフとして本山から派遣された。その縁でそのまま八犬神社に残ったのだ。
その後は神社の仕事をしながら、鶴子の生活を見守って来た。
毎朝、鶴子の寝所の結界を固める。1歳までは、ほとんど外出もなく神社の中でくらしていた。 少し成長すると出かけるようになった。もちろん良雲は護衛として一緒に出掛けた。
5才で幼稚園に通うようになると鶴子の両親と共に送迎をした。
昼間は神社の自室に籠り、絶えず霊視と護衛を続けて来たのだ。
護衛は霊体のオーラを頼りに行われていた。
オーラをレーダーにして追跡する作業と説明しておく。
オーラは誰にでもある。そしてオーラのバリアが存在する。
生き物は、体の中に霊体が入り宿っている。
そして実態(体)の周りに霊体が10cmから30㎝ほどはみ出しているのだ。
エレベーターの中で他人が近くに立つと息苦しいのは体が触れていなくても霊体が近距離で触れていたり、重なってしまうからなのだ。
気が合うとか、合わないと言うのも霊体の相性といえるかもしれない。
このオーラのバリアは普通の人は風船のように伸縮するが、しっかりと固定されていて外にオーラが吹き出したりしない様になっている。しかし鶴子は内側から湧き上がる強い霊力でオーラのバリアに収まらない状態だったから、絶えずオーラのバリアに穴が開き噴出している。
そんな訳で、霊視の目を持つ良雲には何処にいても鶴子の場所を見つける事ができた。
鶴子が6歳と3カ月を過ぎた頃から、鶴子の霊体オーラがしっかりと固定されてきた。
鶴子が心身共に成長してきた証拠だか居場所の遠隔確認が難しくなりつつあった。
「気を引き締めていかなければ」と思っていた矢先の事だった。
「!!? お嬢が、いない」
良雲は気づくと同時に走り出していた。
飛ぶように神社の正面階段に向かって走りながら清史郎の心に直接、話しかけた。
「お嬢が神社の外に出ました。一人です。」
清史郎はテレパシーを受け取ると即座に神社の正面階段に向けて走り出した。
清史郎が階段に到着した時には、良雲は鳥居の外に出て結界の外を歩いた鶴子の足取りを探ってるところだった。
良雲が両手を合わせて霊力を全開にして自身の気を八方に飛ばす。
足元の砂埃が舞い上がり、木々がざわめいた。
清史郎は目を細めて良雲の気道の流れを見つめた。
気道は迷わず鶴子が歩いたであろう道をたどって突き進んでいく。
駅に向かい、踏切を渡り線路沿いの道を走っていく。
しばらく行くと用水路を渡る橋の上で鶴子のオーラが輝きながら壁の向こうへ消えて行こうとしている。
清史郎も同時にその姿を見ていた。
二人が同時に鶴子の姿を捉え「待て」と声を掛けようとした時だった。
その思念を遮る様に黒い影が立ちはだかった。
それは着物を着た大男の姿をしていたが、もう人では無かった。
その人ではないモノは多くの浮遊霊や動物霊を取り込み融合し妖怪の様な異様な存在になっていた。
今ここに現れたのは偶然ではない。鶴子の霊力に引き寄せられたのだ。
「ちぃ」
良雲は躊躇を見せずに印を結んだ。
ノウマクサンンマンダー バーサラダー
センダン マエカラソウタイソウタイ ウンタラター カンマンソアカ
不動明王の姿が浮かび上がると、神剣が閃光を放って空間を切り裂いた。
大男の身体は、枯れ木に集まった鳥の群れが一斉に飛び立つようにやせ細った。
「ぎぃやーあーあああぁぁぁぁ」
この世を彷徨う内に動物霊や浮遊霊を取り込みながら肥大し妖怪化した霊の集団が良雲の術によって、バラバラに引き離されたのだった。
残った本体は枯れ木が揺れる様に力なく立っているばかりになった。
良雲はその姿を見もせずに鶴子に話しかけようとしたが、誰もいない橋がポツリと見えただけだった。
「あの橋の向こうは限界と幽界の境だった・・・。」
橋の手前で呼び止める事ができれば簡単だったが橋を渡ったからには、体制を整える必要があった。
良雲と清史郎は見失った鶴子を探し出すために祈祷所に戻った。
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