お別れ会 3

鶴子は幽限界にいた。すなわち霊体の世界にいた。

一人で神社を出て無意識に体から離れて街を歩き友達の所に遊びに行った。

現実の世界と幽限界は、実のところ全く同じである。

建物、景色、土地も全て生きている人々が暮らす世界と同一の世界なのだ。

ただ生きて体を持つ人間には認識できない、見えないと言った方が正しい。

立地や建物などが全く同じでありながら生身の人間の目には霊体を捉えられないだけの事なのだ。存在していても見えない世界が存在する。それが幽限界なのだ。


余談だが、人の目には盲点がある。例えばノートの端に丸を書く。そして5センチ横に四角を書いて左目を閉じて丸に集中しながらノートをどんどん近づけると、先ほどまで見えていた四角が突然見えなくなる。忽然と四角だけが存在を消してしまう。それが盲点である。

幽限界も盲点の中にあるような場所かもしれない。

一度、盲点の体験をしてみて欲しい。


○      □



良雲は鶴子の位置を正確に見据えながら言った。

「私が連れ戻します。宮司はお嬢の体をお願いします。」

「一人で行く気か!?」

「まだ幽限界です。一人で参ります。」

「・・・・。」

清史郎は一瞬、迷った。

確かに良雲ならば幽限界へ一人で行って鶴子を連れ戻す事はできる。

「しかし、、、」

「迷っている暇はありません!」

清史郎は、それでも迷った。


「幽界の扉が、いつ開くかわかりません。」


この言葉で清史郎は腹を括った。

「ワシが結界を出れば背中を守る者がおらぬ。」

「はい」

「もしも霊界の扉が突然開いたら帰りは背後から攻撃される」

「宮司! 必ず連れ戻します。」

清史郎の言葉を遮る様に清史郎は言った。


「戻った時に、お嬢の体が無いと困ります。お願い致します。」


良雲は清史郎の返事を待たずに幽限界へ入って行った。




「お嬢、そこに居てくれ」






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