第14話 姫
それは弱音を吐いた次の朝のこと。
微睡みの中で話し声をぼんやりと聞いていた。
ルーさんの声と……、弱々しい女性のような声。
女性の、声……?
はっ、と目が覚め、真っ先に飛び込んできたのはルーさんとピンクの美しく長い独特なドレス? を着た黒髪の女性の姿だった。
その女性は、腰ほどまであろう長い髪を風になびかせ、唇の中心部を際立てる口紅をしている。
「しかし、こんなものを受け取っていいのか……」
「よいのです、あなたが悪人には見えませんから」
なにやら少し厚い木の板を受け取っているようだった。
そしてルーさんは愛想よく手を振ると、黒髪の女性は少し急ぐように、それでいて凛とした花のように美しく消えていった。
「ルーさん、なにしてたの」
「いや、食べ物を恵んでほしいっていうもんで、少しわけたんだ、そしたら、これ」
ルーさんが受け取った木の板を見せてくれた。
私の手より一回り小さい手の平模様が赤で木に押されていた。
これは、もしかすると。
「手形……?」
「そうそう、これで昨日のあの門の先にいけるね」
「へぇ……あの人何者なんだろう」
「さぁ?」
まぁいっか、過ぎたことだ、と笑いあって、私達は昨日の門へ向かう準備を進めた。
「また貴様らか、手形がないのなら……ん? それは手形だな、どこで手にいれた?」
「さっきそこで」
「ふむ……? 盗品ではないようだ、いいだろう、中へ入れ」
警戒が溶け、木製の門がぎぃぃっと音を立てて開く。
門の先に広がっていたのは、華やかに賑わう街のようだった。
しかしどうも、道行く人のほとんどが独特な髪型をしているのが気になる。
男性はモヒカンのような、頭の中心に俵状に髪をまとめ、女性は華やかな髪飾りとともに整髪料で固めたているであろうふわっとしてもさっとした髪型をしている。
「ここで買いたいものがあるんだ」
ルーさんは辺りを見渡しながら歩みを進める。
道行く男性が皆腰に戦闘になった竜人も使っていた片刃の剣をこさえているのが少し怖い。
見つけた、とルーさんが立ち寄ったのは、道沿いにある屋台のような店だった。
見えるように品物が陳列され、カウンター越しに店主がいる、よくお祭りであるスタイルだ。
「おぉ旅人さん、なんにしやす?」
「そこのサクラカンザシを一つ」
「まいど、へへっ、嬢さん綺麗だから似合いますぜ」
「そりゃどうも」
男店主のいやらしいにやけ顔を、少し軽蔑するような目で見ながらルーさんは髪飾りを買ったようだ。
ピンクのハートの形の花弁をつけた花が、大小二つついた髪飾り。
きっと似合うだろうなぁ。
これが、買いたかったもの?
「サキ、これ」
「……えっ?」
まさか、私になんて思ってなかった。
こんな可愛い髪飾り、私には似合わない。
でも、ルーさんの期待するような目が、ちょっと嬉しくて。
プレゼントしてくれたのが、嬉しくて。
「あ、ありがとう」
「大事にしてね」
「うん」
髪につけていては、道中ポロっと落ちてしまうかもしれない、そう思って、私はそっと鞄にしまった。
繋いだ手に、一層力がこもる。
三十六度がお互いの手を伝って行き来するような、幸せを感じた。
「旅人、止まれ」
雰囲気ががらりと変わる。
剣をこさえた男性が四方向からにじり寄ってきた。
「姫様と接触したのはこやつらで間違いなさそうだ」
「情けは無用、ここで首を落とさせていただく」
四人がそれぞれ剣を抜き、構える。
道行く人々は珍しいものを見るような、好奇心で怖いものを見るような目で男達のさらに向こうを囲むようにしている。
二重に囲まれてしまったのだ。
ルーさんはとっさに私を庇うように片手を広げ、少しずつ後退していく。
とうとう壁を背に、前方四方向に男がいる状況ができてしまった。
街中は道が舗装され、近くには木もない。
この状況では、自然魔法がまるで役に立たないのだ。
「へっ、所詮女よ、情けねぇもんだ」
「木之助、悪い癖だぞ」
「へいへい、さあさっさと終わらせやしょうぜ」
四人の内の一人が、距離を詰め、自分の間合いに私達をいれる。
そして、その瞬間――
――血しぶきが、あがった。
悪魔も恋していいですか? しみしみ @shimishimi6666
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