第13話 弱音

「しっかし、最近は戦闘が多いなぁ」


 ルーさんは歩きながらぽつりとこぼす。

 確かにそうだ。

 普通に暮らしていれば、戦闘なんてほぼ無縁なのだから、私達の戦闘数ははっきりいって普通じゃない。

 まぁその大多数の原因は私なんだけど。


 竹林を抜ける頃、すっかり景色は変わり、薄緑の竹だらけだった視界には、石で舗装された道やピンク色の花を咲かせる木々、石の隙間から光を漏らすオブジェなど、様々なものが目に入る。

 そして、舗装された道を真っ直ぐいくと、大きな木の門と、その両端を守るように立つ人物の姿が見えた。

 カラスのクチバシのように鋭く伸びたマスクで口を覆っている。

 服の隙間から見える肌や、外見の特徴から、一人は竜人、もう一人は鳥人に見える。

 竜人は長く伸びた槍を構え、止まれと指示する。

 私達は素直に止まることにした。


「何者だ、この街に何の用だ」

「私達は旅人です、宿でもあれば、と立ち寄りました」

「通行手形はあるか」

「手形……生憎持ち合わせていません」

「ならば通せぬ、引き返せ」


 そっか、ならしかたないと来た道を戻る。

 再び竹林の中で、腰をおろす。

 今夜はここで夜営かな。

 あぁ、ふかふかのベッドが恋しいなぁ。

 って、贅沢いっちゃだめか。


 いつも通り火を起こし、ルーさんが食料を探索魔法で探しながら集めに行く。

 火の番をしていると、いつも考え事をしてしまう。

 それも、マイナスな考え事ばかり。

 ほんとに、悪い癖だな。


 ふと、思った。

 なぜルーさんは私が好きなんだろう。

 戦闘なんて全然で、とびっきりの美人でもない。

 まして気のきいた話ができるわけでも、大人な気遣いができるわけでもないのに。

 ルーさんはと私って、釣り合っているのかな。

 一緒に歩いてて、恥ずかしくないかな。

 はぁ、と大きなため息をこぼす。


「どーしたのかな」

「ひゃっ!」


 後ろから声をかけられ、驚いて声を出してしまう。

 振り向くと、木の実やきのこをたくさん持ったルーさんの姿があった。


 焚き火を前に、二人で並んで座る。

 木の実をかじりながら、きのこが焼けるまでの間を会話で繋ぐ。

 ……今日はなぜだか、心の内を話したい気分だった。

 日々募るもやもやとかチクチクが溜まりすぎてたのかもしれない。

 そんな一時の感情に、私は呑まれてしまったらしい。


「私、ルーさんと釣り合ってるかなって心配になるんです」


 言った後、しばしの沈黙が続き、はっと気づく。

 こんなこと、言うことじゃないのに……!

 なんてね、なんて言うには時間が経ちすぎたし、そういう雰囲気でもない。

 どうしよう、と思っていたその時。


「サキはサキが思ってる以上に私を助けてくれてるんだよ」


 ぽろ、と一粒だけ涙をこぼしてしまった。

 涙が溢れだしたわけではない。

 まるで一滴だけ雨が頬めがけて降ってきたみたいに、自分でもよくわからない涙だったのだ。


「私はずっと一人だった、あの森で力尽きた時、こういう死に方も悪くないと思った」


 私はうまく言葉を紡げなくて、黙ったまま聞いていた。


「でも、サキが助けてくれた」


 ルーさんは髪を少しいじった後、こちらに目を向けて続ける。


「君がいるから頑張れる、君がいるから戦える、君が生きる意味なんだ、サキ」

「……、私なんかが、生きる意味……?」

「そう、サキがいなかったら、私は今ここにいないから」


 なんて馬鹿な悩みだったのだろう。

 なんてちっぽけな悩みだったのだろう。


 私はルーさんに釣り合うとは思わない。

 それは変わらないけど。

 ルーさんが私を好きだということは、私がルーさんを好きだということに限りなく似ていて。

 一緒にいるだけで活力になる。

 一緒に話すだけで安心する。

 ただ、それだけのこと。

 でも、それぐらいのすごいこと。

 誰にでもつとまる位置じゃない。


 私は、ルーさんを好きだから。

 私の信じた道、考えて考えて決めた行動。

 その全ては、ルーさんにとっては心を揺さぶる要素なのだから。

 好きって、そういうことだから。


 夜が一層闇を深めはじめた。


「おやすみ、ルーさん」

「うん、いい夢を」


 きっとまた、明日がくる。

 あなたとともに。

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