第一章 5 『商店街の戦い』
八代と歩がスカウトマンと接触してから一夜明け、 とある商店街にて──
あちこちの店は煙を上げ、 変わり果てた姿になっていた。
店前に並べてあった野菜や果物は無差別に飛び散っている。
商店街で店を構えている人々や買い物に来ていた人々は叫び声をあげながら逃げ惑っていた。
そこではここから離れなければ死んでしまうと思わせるほどに、 激しい攻防が繰り広げられていた。
オレンジ色の閃光が地を貫く。 貫かれた地に貼り付けてあったタイルは宙を舞い、 静止する。 音もなく重力が横に変わった様にタイルは一方に向かっていった。
学ランを身に纏った男の両脇からオレンジ色をした巨大な光の槍が二本出現し、 自分に向かってくるタイルを全て焼き尽くした。
学ラン男の正面には真っ黒なロングコートに身を包み、 真っ青な長い顔に半月型のメガネをかけた男が立っていた。
「お前、 俺をずっとつけてただろ。 用があるならはっきり言ったらどうなんだ?」
学ラン男はポケットに手を突っ込んだまま、 タイルを焼き尽くしたあの光の槍を再び頭上に三本出現させた。
「おま……おま……おまえ……おれを……ず……ず、ずっと……つけて……つけてただ──」
半月型メガネ男はボソボソと声を出しながら自分の爪を噛み始めた。
しかし、 それでもその目は学ランの男を捉えている。
「気持ちわりーな。 お前あれか。 コミュニケーション能力皆無系の敵キャラかー。まあいいや」
袖をめくり、 拳を前に差し出す。その手を力強く開くと頭上にあった槍が変形しだし光線を吐き出した。
凄まじい光に照らされるが半月型のメガネは顔色一つ変えずに同じように手を前に差し出す。
すると、 ガレキと化している建物が一列に並び光線を防ごうとする。 だが、 光線は一直線にガレキを貫通していき、 半月型メガネ男に直撃した。
「所詮はコンクリの塊。 防ぎきれねーだろバーカ」
砂埃で男は見えない。 おそらく死んでいる。 そう思ったが、 男は変わらず立っていた。
傷一つつけずに爪を噛み続けている。 手のひらを空に向け、 ゆっくり手を上げていく。 同じようにガレキが浮かび上がるのを見て、 学ラン男は確信した。
「なるほどな。 お前は基本的に念動力で戦うスタイルなのか。 それもかなりのタフとみた。 お前、 名前なんてんだ」
学ラン男が聞くと、 半月型メガネ男は動きを止めた。
「ダ……ダニ……ダニ……」
「ダニ? お前ダニなんて名前つけられたのか。 そりゃあそんな感じになるわな。 俺は真堂って名前だ。 ──冥土の土産ってやつだな」
真堂は無数の弓のような光を空に乱射する。 その弓は放物線を描きながらダニの頭上目掛けて降り注ぐ。
ダニは駐車してあるトラックで守るが、 同じく貫通し、 何本かは身体に刺さっている。
それだけに飽き足らず、 真堂は光の円盤を作り出した。
指を指した方向に飛んでいく。 しかし、 そこにはダニはいなかった。
周りを見渡すがダニは見当たらない。 すると、 大量のガラスの破片が高速で回転しながら円を作り出り、真堂を囲んだ。
真堂はオレンジ色の光を全身から放出し衝撃波でガラスの破片を吹き飛ばす。
その途端に顔に衝撃が走る。 鼻血が垂れるのを感じる。 全身を鋭い爪で引っ掻かれるのに続き、 横腹に二度衝撃が走る。 そして、 腹を殴られ鈍い音を上げながら吹き飛ばされる。
「──透明にもなれんのか。 見えなくなるとか反則だろ」
殴られた腹を抑え、 起き上がるやいなや真堂は右手に光を集中させる。 そのまま地を殴ると、 先ほどの衝撃波など比にならないほどの衝撃が一帯を襲う。 それでよろめき透明になっていたダニがガレキにつまづいた。
それを見逃さなかった真堂は見えないダニもろとも光の槍でそこら一帯を破壊する。
──何度も、何度も。
今までにない爆音で遠くの鳥の集団が飛び去るのがわかった。
砂埃が晴れる頃、 粉々となった商店街に透明化していたダニは倒れた状態で姿を現した。
「お前、 魔法使いって感じじゃなかったな。 何者だ」
しかし、 ダニは動かなかった。 頭の一部が吹き飛んでいる。
「さすがにタフなお前でも耐えられなかったか」
サイレンの音が近づいているのに気づき、 真堂はその場を後にする。
商店街には数分で警察と消防隊が駆けつけた。 まだあたりには煙が上がっている。 立ち入り禁止のテープが貼られ、 逃げた商店街の住民はぞろぞろとその前に戻ってきていた。
「オエエエエ」
若い刑事は嘔吐をしている。
頭の一部が吹っ飛んでいるダニを見て吐いているのだ。 そこに、 禿げた頭が目立つベテラン刑事が近づきながら背中を叩いた。
「慣れろ沼地。 これで吐いてるようじゃ出世しても後輩に面子が立たねぇぞ」
ベテラン刑事は手袋をはめながらダニの頭に顔を近づける。 辺りのガレキが重なった足場は不安定になっているので四つん這いのような状態だ。
「近隣の住民によると二人の男が揉めあいになり、 その……ここまで大規模な喧嘩になったかと」
若い刑事はなるべくダニを見ないように目を背けながら聞き込みを元に書いたメモを読み上げる。
「喧嘩ってもんじゃねーだろ。 小さな戦争でも起こったようだぞ。 周りの建物がボロボロになるまで喧嘩するか? それにこの仏さんは身体中に穴がある。 おまけにトドメは頭がひとっ飛び。 人間の仕業じゃねーな」
周りに散らばった木片やガラスの破片を見渡しながらベテラン刑事は言う。
「でも長谷川さん。 近隣の住民は被害者ともう一人の男が揉めあっただけでこうなったと証言しています。 それに……信じられませんが、 そのもう一人というのが学生だったという証言もあります」
聞き間違いかとベテラン刑事は若い刑事の方に振り向く。
「学生? なんでわかった? 制服を着てたのか?」
「ええ。 学ランを着用していたと」
「学生と成人男性がここまで商店街を壊滅させるかね。 ──これは俺たちの出番はなさそうだな」
ベテラン刑事はガレキの段差から下りて、 現場から離れていく。
若い刑事はそれを追うように走りながら話を続ける。
「長谷川さん。 僕たちの出番がないってどういうことですか?」
「お前五年前の妙な力を持った奴らが複数の銀行を同時に襲った事件覚えてるか」
ベテラン刑事は足を止め、 若い刑事に向かって問いかける。
「五年前の異能者同時多発強盗事件のことですか?」
「『異能』って言葉は好まんなー。 まあそれだ。 当時はお偉いさんたちが頭を悩ませたって話だ。 なんせ異例の事態だからな。 前例も無ければマニュアルも無い。 しかも、 その実行犯は大勢いたにも関わらず全員捕えられなかったときたもんだ。 またいつ奴らが現れるかわからない。 いくらハリボテであっても国民を安心させるためには限られた時間で対策を練らなきゃいけない。 そんな状況でお偉いさんは対テロ機関の『
再び歩き出したベテラン刑事に若い刑事は不満気についていく。
「噂をすればお出ましだ」
車が一台商店街の前で止まり、 二人の男女が下りてきた。
そこにもう一台の車が続いて到着し、 同じく二人の男女が下りてくる。
その四人は黄土色のシャツに防刃チョッキを携えている。 胸に『APS』の文字が書いてあり白いアネモネの花が刺繍がしてあるワッペンをつけている。
「ここからは我々が指揮をとる。 君たちは通常の業務に戻ってよし」
その内のメガネをかけている男が言った。
「『戻ってよし』だ? 偉そうなガキだな」
ベテラン刑事は嫌味を吐きながらメガネの男に近づく。
「その高圧的な態度はなんだ? 少なくとも君たちは現職の刑事だろ? おまわりさんは街のことだけを考えていればいいんだよ」
メガネの男も挑発的な態度をとり、 一触即発状態だ。
「まあまあ、 落ち着いてください。
高身長で顔が整っている男は兎川と呼ばれる男を宥めた後、 隣に立っている女と頭を下げてからガレキの方へと向かっていった。
兎川は刑事を一瞥してから、 もう一人の女とガレキに横たわる遺体を回収し、 すぐに車でその場を去っていった。
残された高身長で顔が整っている男と女はガレキの山を眺めていた。
女の方は男と同じく顔は整っているが身長は低かった。ベリーショートの髪の毛は非常に似合っている。
「月野さん。 どう思いますか? なにかわかりますか?」
「
「月野さん。 前も言いましたけど、 上の名前で呼ぶのやめてください。 普通に『
菱形はピンと伸ばしていた背筋を曲げ、 猫背になりながらそう言った。
「いやー悪い悪い。 下の名前呼ぶのはなんとも照れ臭いというか。 恥ずかしいんだよな」
月野は苦笑いしながら、 菱形の方を見るが菱形に目を背けられる。
この月野と呼ばれる男と菱形と呼ばれる女こそが刑事たちが話していた異能者に対抗するために設立された『
通常装備として『サプレッションライフル』と呼ばれる白いライフルを肩にかけている。
このライフルにはAIが組み込まれており使用者の指示に応じて何百通りの用途に変えることも可能となっている。
「アリア。 サポートレンズを起動してくれ」
「月野将太様。 こんにちは。 サポートレンズを使用するにはコードの入力が必要です」
機械が話しているとは思えないほど精密に人間に寄せてある声でAIが応答した。
「コード、 0 0 0 4 0 3」
サポートレンズと呼ばれる物は視界を高機能化するコンタクトレンズ型のアイテムである。 眩い閃光にも暗闇にも対応でき、 どんな状況下でも鮮明な視界を確保できるため、 『APS』の通常装備として使われている。
「コード認証中……コード認証完了。 サポートレンズの起動を許可します」
アリアと呼ばれるAIの声と共に視界が微かに青くなるのを感じる。
サポートレンズが起動した証拠だ。
「アリア。 エネルギー源を追いたい。 探知してくれ」
「検知中……検知中……高エネルギー反応を検知いたしました。 エネルギー源はここから約五キロメートルの範囲にいると考えられます。 エネルギー源までナビゲーションいたしましょうか?」
「ああ。 頼む」
「それではエネルギー源までナビゲーションいたします。 ナビゲーションシステム起動。 ご一緒に音楽は聞かれますか?」
「ああ。 頼むよ」
月野はニヤケながら立ち上がる。
「科学舐めんなこの野郎」
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