第一章 2 『アマチュア魔法使い』
──ハァ、ハァ、ハァ、ハァ
勢いよく階段を駆け上がる。先ほどから外ではドーンドーンと爆発音が聞こえる。あの魔女が言っていたことはウソではないのだろう。
歩らは全力で屋上へ向かい、ドアを開ける。そこはまるで地獄絵図のように炎と煙が蔓延していた。
「なんだよ、あいつ」
荒れ狂う二本の腕、額からは一本の巨大な角、口から光線を放ちながら二足歩行の巨人がただひたすらと世界を破壊していた。
ジュピア。 不死身の怪物。 とりあえず、 今対峙しなきゃいけない存在。
そう思う最中インカムから声が聞こえてきた。
「不死身の怪物ジュピア。 何世紀も封印されていたけど対処法はもちろんあるよ。 日光を浴びると再び封印されるみたい」
「さすがは賢者の魔法使い。 頭脳派だけに何でも知ってるねー」
藤ヶ谷がインカムの声の主をはやし立てる。
「なんでアンタは声だけの参戦なのよ! こっちに来なさいよ! 」
「残念ながら僕は賢者の魔法使い。非戦闘員なんでね。 遠くから支援をする身なのであーる」
「うるせぇ! こっち来い! 」
賢者の魔法使いである八代 玉夫にいつも通り、 突っ込む野々山。
「総員って言ったよね。 なんでこんなけしかいないの!? 」
歩が後ろを見るがそこには見る限り、 五人しかいないので突っ込むしかなかった。
一番手前には呪詛の魔女である野々山 香帆がいる。 呪いの魔法を持つ彼女は近接まで近づき、 対象を動けなくしたり心を奪うことができる。 八人のなかでは一番魔女っぽい能力の持ち主だ。 なぜか彼女だけ学校の制服でこのユアライフカンパニーに乗り込んでいる。
そして、 その右後ろには魔注の魔法使いである藤ヶ谷 銀治が火の海でテカったメガネの奥に闘志の眼も燃やしていた。 彼は無機物に魔力を注ぎ入れ、 自分の意のままに魔導機具を操ることができる。 今回は三体の人型魔導機具を持ってきているようだ。
一番後ろの影にいるのは幻影の魔女である金井 一葉が隠れるようにこちらを見ている。先の戦いではユアライフカンパニーで乱闘騒ぎが行われるなんて近隣の住民にバレたら、 警察を呼ばれるのがオチなので金井の魔法でビルをまるごと幻影で包み込んでいたのだ。
金井の横には治療の魔女、 桂川 真琴が立っていた。 先の戦いでは金井と外で待機していたようだ。彼女は有機物、無機物に限らず傷を癒したり前の状態に戻すことができる。
「真堂くんは気分が乗らないって言ってて、 倫太郎さんは連絡が取れなかったの」
小さな声で金井が言った。
「まあいつもの事だしな」
二人がこの場に来てない状況を正当化するために藤ヶ谷がフォローをいれる。
プロペラの音が遠くから近づいてくるのを感じた五人は夜空を見上げると、 自衛隊のヘリが三機ほど歩むらの頭上を越えていくのがわかった。
その途端、 怪物ジュピアは口から光を放射し、 そのヘリの一機を貫いた。
「おいおい、 見境なしに攻撃するぞ。 あいつ」
「やばい、 また光線を出す気だ」
標的になっているヘリを歩は『見えない壁』で高音を発しながら稲光る光線を弾き返す。
怖気付いたかのようにヘリは引き返していく。
その引き返していくヘリを尻目に歩は怪物ジュピアの足元でうごめくモノを見つけた。 人だとしたらそれは一人ではなく集団でなにかをしている。
「玉夫。 見えるか。 ジュピアの足元。 何かが動いている。 あれはなんだ」
歩は耳に手を当てインカムを通し、 賢者の魔法使いである八代に聞き出す。
「魔法の念が見える。 人数は三人ほどか。 そこまで魔法の念が強くない事から最近巷を騒がせてる『アマチュア魔法使い』と呼ばれる奴らだろう。 ジュピアを倒して功績を作ろうとでもしているんだろう。 到底無理だがな」
「ったく! そういうのはプロに任せろってんだ」
藤ヶ谷が悔しそうに叫ぶ。
「──私らもアマチュアだよ? 」
野々山、突っ込む。
※※※※※
「和田吉氏〜〜〜〜〜!!おかしいですぞ!!情報と違いますぞ〜〜〜!!」
『アマチュア魔法クラブ』と書いてあるハチマキをした男達はそれぞれ色違いのチェックの上着をズボンの中に入れ込みズレ落ちるメガネを直す余裕もない。 なんせ今男達が相手をしているのは不死身の怪物ジュピアなのだから。
「おかしいですね〜!田中氏〜〜〜〜〜!!『アマチュア魔法クラブ』の考察が間違っていたなんて認めたくない!!こいつはヒトとチョウチンアンコウのハーフ『超人アンコウ』じゃないのか!?」
田中と呼ばれる男はダラダラと頬をつたる汗をポケットから出したハンカチで拭きながら、 メガネを押し上げる。
「でも! 和田吉氏!田中氏!我々の練習に練習を積んだ魔法ならこいつをやっつけられるはずですん! 諦めちゃダメですん! 」
「そうですぞ!ここからが勝負ですぞ!和田吉氏!松本氏!」
三人の『アマチュア魔法クラブ』と名乗るオタクたちはそれぞれ指先の破れた手袋を外し、 怪物ジュピアに向かって呪文を唱え始めた。 しかし、 なにも起こらない。
無論、 この男たちに魔力などないのだ。 魔力があると思い込んでいるだけの集団である。
すると、 怪物ジュピアは三人の存在に気付き足元を見つめている。
「──和田吉氏、 松本氏……動いちゃダメですぞ……確実に目が合ってますぞ」
「田中氏、松本氏……なにか秘策はないのですか?」
「和田吉氏、田中氏……わたくしに秘策がございますん。 三人の合わせ技で敵の攻撃を中和するというプランはどうですん?」
「それだ! それですぞ! ナイスアイデアですぞ松本氏!」
怪物ジュピアは足元にめがけて光線を吐き出そうとグォォと猛獣の唸り声の様な音を出しながら大口を開けている。
「今ですぞ!合わせ技ですぞ!」
「ええい!くらええ!」
「最終奥義ですん!」
三人は一斉に地に手をつけ身体の芯から叫ぶ。 魔法よ出ろ。魔法よ出ろ。魔法よ出ろ。と。
だが、 出ない。もちろんただの一般人なのだから。
怪物ジュピアは光線を吐き出す。三人に向かいまっすぐ放たれたその光線は当たり前だが、 ただの一般人が耐えれるような代物ではなかった。
バァァァァアアアン
──死んだ?死んでしまったのか?
それぞれ口には出さないが自分が死んだことを心で悟った。
だが、 死んでいない。 目の前には怪物ジュピアと並ぶ大きさの壁が自分たちを守っていた。
「──魔法?成功ですぞー!!魔法が出たんですぞー!!」
三人が抱き合いながら泣き始める。お互いの身体をこすりあう様に喜びを全身で分かち合う。
「ついに魔法が……ついに魔法が……ついに魔法が?!」
「お前らバカかよ」
急な背後の声に三人ともビクッとする。 三人が後ろを振り向くと五人の男女が立っていた。
「この魔法はこいつが出したんだ。 残念だけどアンタたちじゃないよ」
野々山は三人と同じように地に手をついている歩の方を指差した。三人は歩をジッと見つめる。なんだこいつらと言いたげに目をそらす歩に和田吉が聞き出した。
「わたくしたちの……魔法じゃ……ないということですか?」
野々山は大きく頷く。
「そんな〜〜。あんまりですん」
松本が天を仰ぐようにパタリと倒れこむ。
「仕方ないですよ。 わたくしたちはただの一般人。 魔法なんて使えるはずもなかったのですよ」
松本の肩を和田吉はポンと叩いた。
「これからですぞ……」
田中の声に二人は顔を上げる。
「まだまだこれからですぞ!!誰がわたくしたちに魔法は使えないと決めたのですか!!絶対に使える時は来ますぞ!!わたくしを信じるのですぞ!!」
それを聞いた他の二人は涙で顔をクシャクシャにしながら立ち上がりお互いに握手を交わし合う。
「あの〜」
突如、発した金井の声に三人は振り向く。
「感動的っぽいシーンで申し訳ないんですけど、 早く逃げてください……」
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