20210313:埋まり続けるキャンパスノート
【第155回 二代目フリーワンライ企画】本日のお題
鳴り止まない目覚まし時計
机の上はぐちゃぐちゃ
大それた夢
なんだそのため息は
報告は以上です
<ジャンル>
オリジナル/幻想・散文的
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全ての知覚が脳に由来するものであるのなら、僕が確かに感じたことが本物であるのか偽物であるのか僕は判断するすべを持たない。
鳴りやまない目覚まし時計の音は僕にとっては本物であるけれど、その本物が果たして脳が作り出したものであるのか実際に鳴り響いているものなのかを僕は永遠に知ることはない。
伸ばした手はただ虚空を叩くだけ。机の上はぐちゃぐちゃで発生源は行方知れず。僕はそこから旅を始める。現実でも夢でも今でも一瞬でも、僕には今この一時しかなく、世界を滅ぼす魔王であっても、空を見上げる蟻でしかなくても、陸地を求める遭難者だったとしても、落下し続ける雨粒でも。大それた夢も小さな現実も、僕にとっては今あることで。
「ならば君にノートを与えよう」
そう言ったあなたば僕にキャンパスノートを差し出してきた。
「君がノートを知覚する限り、ノートに今を書き続けなさい。現実であれば書きつけは増えていくだろう。夢であっても書き読むという反復はきっと記憶と自覚に結び付く」
書くのが僕であるのなら僕の脳は過去を覚えているだろう。ノートに書きつけがあったとしてもそれは現実を保証しない。
僕はノートを書き続ける。夢でも現実でも過去でも未来でも、僕はノートに向き合い続ける。
「なんだそのため息は」
不満かね。
知らずについたため息にあなたは不満そうに呟いた。
「逆転の発想だよ。書いてなければ、それが現実ということさ」
*
15月2日、目覚まし時計が鳴りやまない。
僕は目覚まし時計へ手を伸ばす。伸ばした手はそこで大きく空を切る。
37月93日、机の上はぐちゃぐちゃだ。
どこかから響く音を求めて僕は机の前に立ちつくす。
48月29日、大それた夢を見る。
僕はノートをぱたりと閉じる。フラッシュが焚かれる。手が上がる。質問がとぶ。進行担当が捌いていく。
50月9日、ノートのページを一枚めくる。
真っ白なページは夢も現実も保証しない。
*
「僕はそうして、常に新しいページへ今を書き留め続けています。夢から覚めた日も、現実だと感じた朝も、夢だと自覚した時も、現実から戻った今も」
僕はノートに書き続ける。ノートのページは半分を超えた。ノートの前半半分には日々の記録が書かれている。まだ白い半分は未来の今への予約分だ。
つまりこれも、現実ではなく。
「報告は以上です」
ノートを閉じる。聴衆の影が消えていく。
あなたは大きく拍手する。パン、パン、パン。――それは目覚まし時計にも似て。
*
僕は音へと手を伸ばす。
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