20210206:戦闘用装甲(バトルドレス)を奪取せよ
【第150回 二代目フリーワンライ企画】
<お題>
いつの間にか増えた
二人だけの合言葉
お下がりのドレス
名前をつけて保存
寒冷地仕様
<タイトル>
<ジャンル>
SFっぽいようなFTっぽいような。
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ぎこちない動きでところどころに赤黒い色を付けた白旗を掲げながら僕らのアジトに進んできた
警備にも対応にもアイツにも慣れていない見張りの子供は、緊張した面持ちで機関銃をドレスに向ける。
風と雪に混じりながら確かにドレスから音が聞こえ、静かに機関銃が構えなおされる。
背面の
「誰か、死体引きずりだすの手伝って!」
「イヴィ」
安堵の吐息が歩き出した僕にまで届く。足音がそれに続いた。
「イヴィルスさん」
「おかえりなさい」
「うん、ただいま! ね、これ、状態良くない!?」
近づき見上げる。今まで動いていたドレスは、うっすらと湯気を立てている。装甲にこすったような傷はあれど、目立つような傷はなかった。
「良く見つけたね」
ホールにとりつく。覗けば中に冷たくなった躰があった。正規軍のスーツを着ている。頭部に銃痕が見て取れた。これが致命傷というわけだろう。
「早くしないと固まっちゃう」
イヴィは襟に手をかけた。イヴィより背もあり必然的に力もある僕は半ば乗り込んで、両脇へと手を差し込む。
僕は、思わず眉をひそめた。
「行くよ、ライフ」
「あ、うん。せーの!」
背筋に力を籠める。足で踏ん張り引き抜いていく。
「僕らも!」
追いついてきた子供は懸命に僕の腰に手をまわす。
「もう一度、せーの!」
そこでずるりと操縦者だったものが表れた。
*
見張りの子供を下がらせて、扉へと二人だけの合言葉を打ち込んだ。軋んだ音を響かせながら、クローゼットは口を開けた
分厚い雲に遮られた太陽の量の足りない光では、手前の一部が辛うじて浮かび上がって見えるだけだ。
「開けといて。あれも入れちゃうから」
イヴィは小走りでドレスに向かう。ホールにとりつき滑り込むように足から入る。ドレスを『着る』
先ほどの死体はすでに処理施設へと引きずって行かれていた。雪の中に放置する間に、硬直がようやく始まったようだった。
駆動音が響き渡る。生き物であるかのように、ドレスが動く。向きを変える。
先ほどのぎこちない動きとは打って変わって、スムーズにドレスはクローゼットに入っていく。
『いつの間にか増えたよね』
ドレスから声がした。
「増やしたんだろ。……ぼちぼちだ」
ドレスがクローゼットを進んでいく。動きはスムーズで故障等はなさそうだ。『
『寒冷地仕様で揃ってる?』
「こんなところで動いてるのはどれも対策済みのやつさ」
最奥の空きハンガーにドレスは問題もなく収まった。イヴィが身軽に飛び出てくる。
イヴィと僕と。二人で見上げる。
「名前をつけて保存しないと」
「Xまで来たから、Yか」
改めてみても傷だらけのドレスだった。木や石やそんなものがかすったような浅いもの。銃創とでも言えそうな深くまっすぐ一直線についたもの。膝から下は泥跳ねに汚れ、上部にはオイルのシミがある。数々の戦場を渡り歩いたものだろう。
そして。
「Yellにしよう」
「適当だな」
「大声で叫ぶんだよ。助けてって叫んで、頑張れって叫ぶんだ」
*
南部の戦争から逃げて、一年の半分以上を深い雪に閉ざされる場所まできた僕たちは、乗ってきた車両の不調で足を止めた。寒冷地仕様になっていなかった車両は、オイルが凍りエンジンが焼け付きタイヤが破裂し、僕らにはどうにもできない鉄くずになった。
子供が大半の僕らは強硬する手段を取ることもできず、そこにとどまらざるを得なかった。幸いだったのは徒歩で往復できる範囲のすっかり無人となった村に、保存食がしっかり残されていたことだった。
食料の目途が着いた頃、正規軍のドレスが現れた。僕は子供たちを避難させる側にいた。イヴィはドレスの対応に向かった。
イヴィは、最初のエンカウントをドレスの奪取でやり過ごした後、一つの提案を僕らに投げた。
「人数分のドレスを集めて、みんなで一緒に逃げるんだ」
*
「あと1機――あと一人」
イヴィは広げた両手を見つめている。
「すっかり任せてしまって、すまない」
緩く、力なく首を振る。
「いいんだ。僕には子供の相手は無理だから」
イヴィは両手を握りこんだ。
*
イヴィがどうやってドレスを奪取しているのかの詳細を僕はいまだに聞けずにいる。
*
「イビィさん、ライフさん! ドレスが来ます!」
イヴィと僕は、ほとんど同時に、立ち上がった。
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