20210130:三度目の果実
【第149回 二代目フリーワンライ企画】
<お題>
こんなところにあったのか
サービス精神
三度目の収穫
当たり前のように思っていた
優柔不断
<タイトル>
三度目の果実
<ジャンル>
SFと言うべきか。ファンタジーと言うべきか。
三度目の収穫でその土地が終わる。
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三度目の収穫で拾い上げた果実はほの温かく内から熱を発していた。思わず頬を押し付けた僕から船長は果実を取り上げた。
「これは人が触り続けていていいものではない」
船長は果実を透明な小箱に収める。複雑な装飾の入った小箱は祭りに欠かせない法具だった。
「さぁ、いこう」
船長は今まで畑だった場所へ背を向ける。何度も収穫に立ち会った大人たちも、船長に従い歩き出した。
僕は自分の手を見つめた。取り上げられた果実の熱がまだそこに残っている。いや。果実は僕へとその跡を刻んでいた。
僕は開いた手をゆっくりと閉じる。そして再び平を広げる。ピリピリとした刺激とずるりと滑る感触が走り。見る間に表皮は爛れ落ちた。
あぁそうか。僕は思う。
大人たちの手には不可思議な傷跡がついていた。大人になるために必要なものだと幼い僕がそう認識するくらいには。
僕は痛みに思わず顔をしかめながら、大人たちの背を追った。
栄養も資源も価値も失った土地は、風に遊ばれ砂模様を変え続けた。
*
集落へ戻ると祭りの準備はすでに整っていた。
神殿の扉は開け放たれ人々が周囲に集っていた。サービス精神を発揮した道化役が昔話を声高に叫ぶ。
――僕らの遠い遠い先祖は船に乗ってこの星までやってきた。船は安寧を求める人々により静かに地上に降ろされた。人々は船を降りこの星の隅々にまで散っていった。
――一度目の収穫で、僕らは食料を手に入れた。土中の有機物をすべて吸い上げ、根や茎すらも養分とした果実で僕らは日々を賄った。
――二度目の収穫で、僕らは工材を手に入れた。加工が容易で超新星爆発以外の手段で作られうる安定した金属類で、僕らは船を修理した。
――三度目の収穫では『星の申し子』をかき集めた。星が終焉を迎える際の残骸のような物質を、僕らは僕らの為に貯めた。
――いつかこの星の全てを知り、僕らが探す星ではないと分かったとき、僕らは三度目の収穫物で再び空の彼方へ飛び立つのだ。
僕らは宇宙から来て、そしてやがて宇宙に帰る。生まれた時からそう聞かされ、そう当たり前のように思っていた。
けれどと思わないこともない。
僕らの村に船はない。そんな大きなものを僕らは知らない。
船長は僕の疑問顔など気にも留めずに神殿の中へと入っていく。小箱を技師に手渡すと、技師は恭しくそれを掲げた。神殿の中央の床から生え出た台の上へ。
そして船長は人々へと振り返る。
「みんな、よく聞いてほしい。今日、この星の最後の土地で三度目の収穫が行われた。格納台の上のものがその果実だ」
人々の間から声が漏れる。感嘆とも動揺ともとれる声が神殿の周りを埋めていく。
「この最後の果実により、わたしたちの船は再び息吹を取り戻す。見よ!」
台が光に包まれた。小箱が台の中へと入っていく。
地響きが聞こえだした。足元に揺れも感じた。僕を含めて幾人もが転んで尻を打ち付けた。
「こんなところにあったのか」
それは誰の声だったろう。
「騙されていたな」
言葉とは裏腹の歓喜に満ちた声だった。
「宇宙の意思よ。我々を再び受け入れてください」
それは願いにも似ていて。
「これで旅が始められる」
溜息のような言葉が続いた。
地響きは激しさを増して続いている。
船長はみなを引き連れ神殿を出た。技師は台の脇に一人立ち、虚空に向けて手を動かす。
優柔不断で知識も経験もない僕は、転げるままに技師の傍に辿りついた。握ったままの爛れた手を僕はそっと開いてみた。
「三度目の収穫物は、危険なものなのではないの」
「わたしたちがわたしたちのままでありたいなら、危険なものかもしれない。けれど、危険な分、それで船が動かせるのまた事実だ」
技師は大きく手を動かす。掴まれと声がして、僕は慌てて台を掴んだ。
床が滑るように消えて行った。地面が割れて巨大な穴が表れる。穴の中には大きな大きな鳥のようなものがあり。『尻尾』が台に繋がっていた。
「さあ、また旅に出よう。帰るべき場所を探して!」
船長の声が響く。
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