第83回『祈る』:個祈祷予約は三ヶ月待ち

 知った顔が知った社殿を背景にして今マイクを向けられている。

「若い。かっこいい」

 ――ご祈祷とは、誓いをたてることです。

 浅葱袴に温和な笑顔の好青年が画面の中で愛想を振りまく。

「個祈祷、とかいうののご利益が凄いんだって」

 ――大事なことは、日々誠実に過ごすことです。

 人間観察を趣味として。将来は芸人か作家か催眠術師。ビッグマウスと誰もが思った。

「実家の側なら行ってみようよ」

 ――暗示に近いかもしれません。

 奨学金で大学卒業、芸人崩れに弟子入りしたとか噂ばかりを思い出す。

「神職資格持ってない気がするんだが」

「なにそれ」

 ――お礼参りは必ず、絶対、してくださいね。

 一部で詐欺師と呼ばれていた高校時代の笑顔が重なる。

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