第82回『箱』:箱の外

 女は下がり続け逃げ続けやがて壁に行きあたった。壁より外へは行かれずに、女は壁を叩き蹴った。やがて女は言葉を小さな道具に変えて、壁を穿ち穴を開けた。

 壁の外には空があった。地があった。繁茂し萌える草木があった。振り返って見た壁は古く汚れた頑丈なだけの箱だった。

 女は穴から続く女へ手を貸した。ひとりふたり。女も男も、どちらでも無いものも。

 彼らはやがて道具を持った。穴を広げよ。壁を壊せ。箱を壊せ。

 新たなひとりが穴を抜ける。歓喜の声が響き渡る。

 箱の外の生き物たちは、その声をじっと聞いている。


 人々はやがてそれに気づくだろう。地には他にも箱があること。箱の外には嵐があること。空も地も大きな箱の中にあることを。

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