第84回『捨てる・棄てる』:人のかたち

 早春の花香の中に確かに異臭が混じっている。

「今日の現場」

「言われなくても」


 ――このお人形さん、良い顔してるでしょう?


 玄関前に壊れた家電が積まれている。

 借りた鍵で引き戸を開けると、早速悪臭が流れ出る。


 ――捨てるなんて酷いわよねぇ。ほらここがあなたの場所よ。


「何で捨てないんですかねぇ」

 土足のまま框を上がる。廊下にはプラゴミに混じって土と埃と足跡と、動物の糞尿らしきものも見える。


 ――捨てる捨てない、そういう想いがその人をかたち作るのよ。


 開いた襖から部屋が見える。真ん中に小さな空間がぽっかりとただ空いている。

「あれが」

 家主の小さなかたちに向かって、二人揃って手を合わせる。


 ――私の形はどんなかしらねぇ。

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