第67回『泳ぐ』:魚は流れを泳ぐもの<タブレットマギウス>

 魚が空を泳いでいく。薄青の影がするりするりと地面を行く。

「クジラだ!」

 小綺麗な子供が追って走る。のんびり大人が後を追う。

 すれちがう私はしゃれたカフェの前を過ぎ、真新しい市場の脇を折れる。

『空を泳ぐ魚の町』

 古びた駅舎の看板は、埃も付けずに観光客を出迎えている。

「おかげさまで名物になりました!」

 案内所員に軽く手を上げ挨拶し、町役場の扉を叩く。


 熱線吸収の電書魔術を魚型にして泳がせた。

 街道から少し離れた淀みの町に新しい流れを引き込めればと。

 余所者とか観光客とか、知らぬ顔が闊歩するよう。


「動きがありました」

 泳がせているチンピラには、田舎実家の泥濘の安寧ではなく。

 激流を必死に生きて泳いでいってもらいたい。

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