第68回『夕』:夕方の常連<オリジナル>

 赤道直下で時速1667km。音を超えれば永遠の黄昏に身を置くことも可能だろう。緯度が上がればより低速で。極地域なら実現可能な速度になるか。

『出る』と有名な非常階段の夕方の常連は、煙草を嗜むでもなく俺越しに沈みゆく夕陽を眺める。

 俺は灰皿に煙草を押付け手摺に置いた缶を取る。そいつの視線は動かない。

「白夜だろ」

 一瞬だけ俺へと動いて、あぁ、マヌケな声で視線は外れた。

「白夜じゃぁ、誰そ彼とは違うなぁ」

 陽が沈む。あわいの時は終わりを告げる。休憩も終わる。

「移りゆくから黄昏なんじゃね?」

 軋むドアから光の筋が漏れ伸びる。白衣に浮かぶ無いはずの影を俺は見なかった事にする。

 淋しげな嗤い顔を夕闇が静かに隠していく。

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