第67回『泳ぐ』:宇宙遊泳<科楽倶楽部>

 扉が閉まるその横でレールに引っかけたロープが張る。キンとカラビナの音が届く。束縛を享受する音だとぼんやりと思う。

『五〇メートル。九時方向』

 壁に立つとは即ち逆立ち。遠心力を恨めしく思いつつ雲梯の要領でレールを掴み離し掴む。

 最後はピッケルと呼ばれる電磁石で一歩一歩にじり寄る。

「到着。断線と判明。修理に入る」

 壊れた玩具の信号機を修理する。体を安定させながらハンダとコテで訓練課題をそつなくこなし。

『修理確認』

 ため息と共に見上げた先を星々が過っていく。太く強靱な命綱が視界の隅を掠めて張る。


 宇宙遊泳は自由に接し自由から遠く、何よりも死に近しく。


 滑って離れたハンダの屑はあっという間に宇宙の彼方に飛び去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る