第65回『鍵』:伝えるべきもの<科楽倶楽部(移民船世界観)>

『ファ』の白鍵が叩かれる回数。

『レ#』の黒鍵が叩かれる回数。

 ピアノ線とはまた別に叩かれ続けて木鍵が動く。間違いなく弾き終えたときに歯がかみ合う。

「飴! 大きい!」

 箱が開く。鍵盤の前の子供は両手で受けて目を輝かす。

「音符を意識させたいの」

「メトロノーム?」

「打鍵毎」

 再び箱をしっかり閉じる。子供は真剣な顔で鍵盤に向かう。

「プログラムだな」

「難しい?」

 マイコンは使わない。理由でもあり、面白いと思えるようにもなったから。

「やるよ」

「ありがと」

 合成音の完璧な曲が量産品のカーテンを揺らして規格品の家具を撫でる。

 伝えるべきは技術と、そして。

「楽しい?」

「うん!」

 曲と言うには程遠くとも。お菓子が箱から溢れ出す。

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