第65回『鍵』:鍵の子供<オリジナル>

 唾液を少量採取して、画面を覗けば検査終了。

 二人揃って役所を出る。荷物を預けてすっかり身軽になった君は、マオカラーの長袖のまま初夏の日差しを歩き出す。

「二時間か」

「半分だけどね」

「半分でも、だよ」

 君は『君』と特定されて大人になる。新成人給付を半額受け取り、保護者不要の立場になる。

「こんな制度、何になるのって思ったけど」

 君はドリンクスタンドへと手を伸ばす。袖口から痣の見え隠れする細い手首が憧れていたカップを取る。


 *


 君の半分は実の親へ。私の半分は養い親へ。

「財宝が欲しいだろう?」

 その言葉で鍵の子供は生かされる。


 *


「同居人は要らない?」

 生き延びた君、生き延びてしまった私自身。

 宝箱の底には、希望がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る