第64回『書く』:耳なし芳一の魔法書<タブレットマギウス>

 灰の中で残り火が燻るような時間になると、彼女はひやりとする指先で僕の上で遊び始める。顔、耳、首、肩、腕、胸、腹、寝返りを打ったその背中。腰、尻、太腿、脛に足首足甲、足指に至るまで。

「耳なし芳一はお経を書き忘れた耳だけ、亡霊に取られてしまったの」

 睦言に怪談はないだろうといつも思う。けれどいつも彼女は囁く。

「貴方が大事だから、お経を書くの」

 そして最後にタブレットが淡く光る。


 *


「その解釈を私にしろと」

「たまには羽を伸ばしたいし」

 意気投合した別の女性は僕を眺めて脱いだばかりの下着を手に取る。

「そんなとこ欲しくないから。バイバイ」

 彼女の指が『お経』を書かなかったのは。

 そこ以外の皮膚全面でMANAが輝く。

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