第64回『書く』:書き表すもの<科楽倶楽部>

 Hello。Kamusta。Sawubona。привет там。

 どれも『こんにちは』の意味らしい。

「記号だからね」

 代書屋の看板の下で若店主は、紙へと向き合いながら呟いた。

「手書きなんて大変でしょ」

「そうだなぁ」

 若店主は顔を上げて息を吐く。天井を見上げて伸びをする。

「手書きだから良いと言うわけじゃないけど」

 ほら。

 紙には単語が並んでいた。二重の線で、蔦を模した、ゴシック柄の、装飾を施された字で。

「字は二次元の記号だから。何を書いてどう伝えるか。意味だけか印象もか」

 眼鏡の奥が細くなる。

「君は」


 *


 僕らの暮らし僕らの想い。船を降りても残るように。

 伝えたいのは意味だから。

 僕はつまらない僕らの小説を書く。

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