第60回『祝』:死神の祝福〈オリジナル〉

 老医師は容疑を全て認め、取り調べのほとんどを黙秘で通した。それ故、音声記録はこの一言だけだった。

『神様も仏様も助けちゃくれねぇ。だから俺が祝福を与えてやる。死神のように』

 老医師は地獄と噂される土地の周りで、幾人もの赤子を取り上げ、数多の子供成人を救い、無数の老人を殺した。そして極刑を言い渡された。

 刑は執行されたとも、寿命が尽きたとも言えた。多くの遺族は触れられることを望まなかった。


 彼はそう聞き育ち、真実を望み、ペンとカメラを生業に選んだ。

『神も仏もいやしない。祝福はね、人がそうと思ったものを言うんだよ』

 遺族の一人、被害者の孫で彼の祖母に当たる女性の事故から始まる遠い記憶は、彼の根底に今もある。

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