第59回『窓』:窓際族の引き継ぎ<タブレットマギウス>

 肩書の一つもつかないままに定年を迎えた水上さんは、穏やかな笑顔を残して去って行った。

「お荷物が減ったな」

 水上さんより若い部長は清々したと息をつく。

「まさに窓際族でしたね」

 更に若い課長は嗤う。

「社長も人がいいからねぇ」

 窓を背にして椅子を鳴らし、さて仕事だと部長は大きく伸びをした。


――後藤さん、お願いがあります。


 窓辺に立つ。天気を見る。見る振りをして電書魔術を起動する。朝昼晩。毎日欠かさず。

「後藤さん、水上さんみたい」


――部長は窓を背にしているでしょう? 重要書類が丸見えなんです。それでね、盗撮を防いで欲しいんです。コストはかけずに。


「そうかな?」


――これは、特命ですよ。


 僕は笑む。多分、僕は楽しい。



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