第59回『窓』:小窓のレースカーテン<科楽倶楽部(移民船世界観)>

 分厚い扉の小窓を開ける。冷たい部屋に姿は見えない。

「出てこないと弁護も出来ない」

「いらない。反省しない。改心もない。減刑なんてするだけ無駄」

 彼女は呟くように嗤い望む。経験のない刑罰を。

「技術が絶えてしまう」

 繊細なレース編みは教本で補えるような技術ではない。伝承者の一人は死んだ。一人は嫁ぎ。最後の一人は。

「人の目を奪うばかりの装飾だわ」

 衣服にあしらい、敷物で彩り、小窓を飾る。細糸で編み込むレースは陽射しも視線も遮った。窓を開けても、誰も見ない。

「ねぇ」

 第三子の出産権を持たない彼女は誰より繊細で複雑なレースを編んだ。きっと人生そのままの。

 だから。

「レースを退けて。顔を見せて」

 私は彼女の小窓を覗く。

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