第57回『演じる』:あなたのための演技<タブレットマギウス>

 彼女はタブレットをタップする。

 咥え煙草で扉を開ければ、いきなり怒声が飛んでくる。

「煙草なんて! 何処だと思ってるの」

「はーいはい。すぐ消すよ」

 乱暴な応酬が続く。彼女は早々に退散する。

「怒って見えますが、母は姉が好きなんです」

 私じゃなく。

 気の弱そうな笑顔の前で、フェイクシガーは溶け消えた。


 *


 ドアを開ける。女性は深く枕に凭れる。

「妹の方とわかってはいるんです。匂いがしませんし」

 でも。

 抱え上げて女性を横に。足りない力は魔術に借りる。

「本物は何処にいるのやら」

 ごめんなさい。僕と私と素と演技と。

「便りが無いのは良い便り、ですよ」

 男性の介護士らしい太い声で慰める。

「あなた、あの子の匂いがする」

 微笑を、返す。



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