第58回『夢』:誰の<オリジナル・現代>

 バイオリンを構えると、僕に視線が集中する。

 弓を引けば、みんなうっとり笑顔になる。

 僕はかっこいい。

 夢はもちろん、世界一!


 あっちゃんより下手なゲームも、上手く蹴れないサッカーも。かっこ悪いしだから嫌い。

 それでいいの。ママは笑う。

 それでいいんだ。僕も笑う。


 舞台の真ん中に僕は進む。いつものように弾き始める。

 舞台の下で大人たちは、怖い顔で僕を見る。


 僕には拍手は飛んでこなくて。僕はかっこ悪かった。

 もうこんなもの。

 触りたくない。


「もっと練習しましょう」

 ママは笑う。笑ってないのに笑っている。

「プロになるのが夢なのよね。生まれる前からずっとずうっと」

 僕は震えながら弓を取る。


 ねぇママ、教えて。

 それは一体、誰の夢?

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