後編 その2

 店内は確かにその手の店の『中の上』という雰囲気にぴったりだった。


 豪華そうな調度品。


 間接照明。


 ゆっくりと流れるジャズ。

 

 そして客の相手をしている女性達は全員洗練されていて、そこらにある安物のキャバクラに比べればランクもかなり高いように見える。


 女性達は殆ど全員カクテルドレスだったが、恐らく三十代後半か四十初めだろうと思われる薄化粧に髪をアップにした一人だけは、白を基調に淡い花びらを散らした訪問着を着ていた。

 

 恐らく彼女がこの店のマダム(いや、ママさんと言うべきか)なんだろう。


 ドアボーイがマネージャーに、そしてマネージャーがそのママに何やら耳打ちをすると、彼女はバーカウンターに腰かけた俺の方をちらりと見てから、こちらにやって来た。


『初めまして、グウェンさんの名刺をお持ちだなんて珍しい・・・・出来ればお名刺を頂きたいわ』


『すまんが、あいにく今名刺を切らしていてね。』


 彼女は驚いたような顔をしてから、続けて、何かお呑みになる?と聞いてくる。


 俺がカルアミルクを頼むと、また変な顔をしたので、


『悪いが俺は今医者に酒を止められててね』とだけ答えて置いた。


 マダムはどうやら飛び込みで現れた俺の風体を探っているようだが、俺は『なに、グウェン氏とはビジネス上の付き合いでね。それだけさ』と答えると、深く訊ねることをせずに、


『あら、そうですの。じゃ、ごゆっくり』


 とだけ答え、また元のボックス席・・・・そこにいたのは、あのボニーとクライドの二人だ。


 二人は背広姿の、目つきが悪い数人と何やら話し込んでいる。


 ボックスに座っていたのはマダム以外、他のは、誰もいなかった。


 俺はさりげなく、店の中を眺める。


 他の席にも男が数人、やはりと、何やら談笑をしている。


 どこかで見た顔がいるな。そう思った時だった。


 店の入り口で数名の怒号が聞こえた。


 マネージャーと黒服が二人駆けつける。


 するとその瞬間、何かが弾けるような音が響いた。


 勿論それは花火なんかじゃない。


 銃声だ。


 女たちの悲鳴、続けて聞こえたのは、応戦する銃声だった。


 見ると、ボックス席にいたボニーとクライドはソファに身体を沈め、いつの間にか拳銃を抜いていた。


 いや、三人だけじゃない。


 連れの三人も拳銃を抜き、構えていた。


 しばし、銃撃戦が続く。


 乱入してきた三人は、それぞれ腕、腹、肩を撃たれてその場に倒れた。


 だが、事はそれだけでは終わらなかった。


 そこにいた客たち全員は全て銃を持ち、かまえ



『動かないで!』


 鋭く、良く響くが、落ち着いた声が狭い店内に響く。


『銃を持っている人、直ぐに捨てなさい!』


 間違いない、それはあの『マダム』の声だった。


 マダムは何時の間にか手に黒光りするコルト・ウッズマンを握りしめ、辺りを睨みつけている。


 ボックスに座っていたボニーとクライド、そして三人組の『その筋』らしき男達も、マダムの迫力に気圧されたのか、床の上に銃を投げ出した。


 しかし、次の瞬間再び隅のテーブルから銃声!


 一人で来ていたと思しきスーツ姿の男が、マダムに銃口を向ける。


 もう迷っている暇などない。


 俺はホルスターからM1917を引っこ抜き、一発発射した。


 男の銃声と、俺の銃声が重なって店の中に響く。


 銃は弾き飛ばされ、男は右腕の甲に穴をあけてのたうち回った。


 マダムは切れ長の目を丸くして俺を見つめる。


 俺は黙って銃をしまい、続いて認可証ライセンスとバッジのホルダーを提示し、


『さあ、早く110番に電話した方がいいぜ』


 と、付け加えるのも忘れなかった。




 


 


 

 


 

 

 


 

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