後編・その1
日が陰り、辺りはすっかり暗くなった。
時計を見る。
午後四時三十分だ。
(今日もスカを掴まされたか・・・・)
俺は何本目かのシナモンスティックを、口の中で
俺に合わせたかどうか分らないが、周囲にいた胡乱な連中もごそごそと動き始める。
その時だ。
ビルの入り口から一組の男女が下りてきた。
男の方は地味なグレーのスーツにノーネクタイに黒縁眼鏡に七三に分けた髪。
女の方は紺色のツーピースにピンク色のフレームの、顔を半分隠すようなサングラスに、花柄のネッカチーフで髪を隠している。
俺はとっさにあの写真を見比べる。
間違いない。
あの二人は、『ボニーとクライド』だ。
二人は歩道に出てくると、通りかかったタクシーに手を挙げて停めた。
ご都合主義もいいところだ。こんな住宅街の路地を、流しのタクシーなんか通りかかる筈もない。
仕方ないな。
俺は携帯を取り出して、ある番号にかけた。
待つほどの事もなく、後ろでクラクションがなり、くすんだ色の国産のセダンが来て道の端に停まる。
『へい、旦那、どちらまで?』
ウィンドが下りてサングラスを額に押し上げたのは、お馴染み、ジョージだった。
『前のタクシーを追ってくれ。中央無線だ』
『今日は他にも仕事があって、そっちをキャンセルしてきたんだ。幾分上乗せさせて貰うぜ』
『構わん、依頼人は一秒で国一つ潰すくらいの金を稼げる男だ』
俺は周りの連中、ホームレス、ベビーカーを押した主婦、鞄をぶら下げたセールスマンが、一斉にきびきびと動き出すのを確認し、ジョージに車を出させた。
30分後、俺は銀座のとある店の前にいた。
店の前は当然ながら駐禁であるから、俺は少し離れた大通りで、ジョージに待つように言うと、店に向かって歩き出した。
二人が入っていったその店は、そう、銀座でも『中の上』クラスに属する、まあ『高級クラブ』というところだ。
店の入り口にはわざとらしく、
『会員制』と書かれた札がぶら下がっている。
俺は構わずにドアに手をかけ、中に向かって押すと、そこに立っていた色白に蝶ネクタイ、背は高いがさほどがっちりしていると思えないドアマンが、
『お客様、表の札がお見えにならなかったのですか?』さもこっちを馬鹿にしたような声で言った。
俺は何も言わず、奴の目の前に一万円札を二つ折りにして突き出した。
しかし、敵もさるものだ。
それでも奴はまだ俺の前に立ち塞がって動こうとしない。
挙句の果てには奥に向かって目くばせをし、もう一一人の黒服・・・・恐らくマネージャーなんだろう・・・・を呼ぼうとしている。
仕方ない。
こういう手はあまり使いたくはないが、俺はもう一枚の
途端に彼の表情が変わる。
『失礼しました。どうぞ』
彼は名刺だけを俺に返し、札は懐にしまって、大きくドアを開け、中に招きいれた。
彼の名刺がこんなところでも威力を発揮するとは思ってもみなかった。
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