中編
『バウンティ・ハンター』という言葉をご存知だろうか?
読んで字のごとし、即ち『賞金稼ぎ』のことである。
日本も昔に比べ、随分と物騒になった。
そのため犯罪が増加し、犯罪者に懸賞金をかけるケースが増えた。
それを追跡して捕まえ、警察に引き渡して懸賞金を受け取り、それで生活をしている連中がいる。
それがバウンティ・ハンターだ。
勿論彼らも俺達探偵同様国から発行された免許を持っている正式な職業であるから、拳銃の所持も許されている。
しかし、今のところ警察を退職した人間で前科のない者の独占となっている。
何故そうなっているのかは俺にも分らない。
探偵は『依頼者があって』の稼業だが、彼らは依頼者など関係ない。
自分の判断で動き、そして賞金首を捕まえる。
しかし幾ら拳銃を所持しているからって、西部劇に出てくるように、
『DEAD OR ALIVE』つまり、
『生死を問わず』という訳には行かない。
向こうが銃を撃ってきたら応戦はできるが、射殺してはならない。
つまりは逮捕出来なければ賞金もなしだし、殺してしまってもまた賞金は貰えない。それどころかライセンスを取り上げられ、自分達が臭いメシを喰わねばならない羽目に
あ、ちなみに賞金は必ずしも警察が直接掛けているとは限らない。
大抵は地方自治体であったり、警友会という、警官を定年退職した連中で作っている団体であったり、時には犯罪被害者、或いはその遺族が掛ける場合もある。
俺達私立探偵との関係?
格別友好的という訳でもないが、かといって敵対しているわけでもない。
しかし、こっちの依頼と賞金首がぶつかってしまった場合には、勢い『競争』という事にもなるわけだから、そうなれば向こうもこっちも必死にならざるをえない。
ああ、ちなみに探偵は仮に賞金の掛かっている手配犯を、行き掛かり上捕らえることになったとしても、放棄しなければならない。
別に法律に明記されている訳じゃないが、こっちは別にギャラをとっているから、金を二重取りすることになるわけだからな。
『探偵はギャラで稼げ、賞金稼ぎは賞金で稼げ』と、まあこういう訳だ。
『大兄』氏が帰った後、俺はデスクの前のひじ掛け椅子に座り、彼が置いて行った写真を眺めていた。
男の方は狐のような眼の鋭い男で、こっちは典型的なチャイニーズだ。グレーの三つ揃いのスーツにブルーのネクタイという、一昔前のきざな男という雰囲気。
女の方はどうやらフィリピン系らしい。地味な紺色のスーツに白のブラウス、海老茶色のベレー帽で、顔立ちはお世辞にも美人とは言い難い。
何でも彼の話によれば、この二人はダバオにある支店で在庫管理と経理という、至って地味な仕事をしていたという。
そんな二人が一体何で在庫の横流しなんていう大それた真似を企んだのだろう。
名前は・・・・笑うなよ?
男の方は、クライド・バロウ。
女の方はボニー・パーカー。
嘘じゃない。
本当にそう名乗っていたという。
どこからどう見ても東洋系にしか見えないのにな。
それに・・・である。
これも『大兄』氏からの情報によると、二人は行方をくらました後、彼らの組織とは別のシンジケートからも追われているのだという。
どうやら彼らは、そっちのシンジケートとも、のっぴきならない揉め事を引き起こしたらしい。
『大兄』氏の裏のビジネス、つまり秘密結社は確かに人に言えないような仕事をしてきたのは事実だが、それでも守らねばならない鉄の規律があるという。
それは『
他はどれほど
『
恐らくあの二人・・・ボニーとクライドは、そっちのシンジケートからヤクのあがりでもちょろまかしたんだろう。
『大兄』氏は、現在調査中だから
そう付け加えた。
そのシンジケートは大兄氏の組織と比べれば人数も規模もそれほど大きくないので、未だに日本にまでネットワークが出来ていないから、自分たちで手を出すのは無理だ。
そこで日本国内の『その筋に頼って、懸賞金を掛けさせた・・・・どうやらこういうことらしい。
俺は賞金稼ぎたちと競争するつもりはまるでない。だから連中が何をやろうと知ったことじゃないが、自分がやるべき仕事を妨害するなら、それならそれで考えがある。
こっちだって、自分の仕事はきっちりやって見せる。それだけのことだ。
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