サマンサ


「冷蔵庫から白ワイン持って来て、ダーリン」

サマンサは言った

おれは操られているとも知らず冷蔵庫へと向かった

駆けた

しかも自分自身に号令を出して

「それえーっ」

勢い余って到着した冷蔵庫に顔面を強打し仰向けにひっくり返った

サマンサは向こうの部屋から言った

「んもう、何やってんのよ、このクズ!」

「へへっ………」

おれは手で顔を拭った

鼻血が付いていた

おれの名はジョン

ジョンは白ワインの瓶を持ちサマンサのいる寝室へと戻った

「何、突っ立ってるのよ、ちょっとグラスはどうしたの? グラスが無ければワインが飲めないじゃない」

「へへっ」

おれは笑いながらそのワインの瓶をサマンサの頭部に向かって勢い良く振り下ろした

瓶が割れ中の液体が派手に飛散した

「お前のような女はもうたくさんだ」

生まれて初めて妻のサマンサに口ごたえした

おれはサマンサが怖かった

サマンサは強大な存在としていつも立ちはだかっていた

だが今、そのサマンサは両手両足をだらしなく広げ転がっていた

「もう怖くなんかないぞ」

自分自身にそう言い聞かせた

叔父さんに電話した

「………もしもし? 叔父さん? おれだよジョン、叔父さんの言った通りだった、サマンサ、あんな奴と結婚なんかするんじゃなかったよ、サマンサ? ああ死んだよ、遅かれ早かれいつかはこうなる運命だったのさ」

叔父さんは意外にも憂鬱そうな声で受話器、越しに語り掛けて来た

「なあジョン、お前、本当にやったのか? 呼吸音は確かめたのか? サマンサを甘くみてはいけないぞ、あいつは学生時代キャンプファイヤーに突如、現れたヒグマを片手で締め殺したという逸話を持っている」

その話しは確かに聞いたことがあった

「サマンサは今、何処にいるんだ?」

「ここで寝っ転がっているよ、あれっ? サマンサがいない」

「気をつけろ、サマンサはきっと闇に潜んでいるぞ!」

周囲を見回した

だが何の気配も感じられなかった

自分が追い詰められている気がした

おぞましい奇声と共にクローゼットの中からサマンサが飛び出した

おれは逃げた

背後から首根っこを掴まれた

翌週、おれは総合病院で齧り取られた脳の三分の一の修復を図っていた


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