地区大会、決勝


「いくぜ!!」

おれの放った稲妻シュートが敵陣のゴールネットに突き刺さった

「プイーッ」

審判のホイッスルが天空に響き渡った

同点ゴールの瞬間だった

「キャー!」

女子たちの歓声がこだました

心地良い瞬間

「ナイッシュ!」

ミッドフィルダーの山本辰夫がおれの肩にポンと手を置いた

おれは言った

「お前こそ、ナイスアシスタント!」

顔面を伝っている汗を拭った

おれと山本辰夫は互いを見てへへっと笑った

空は青かった

特に理由も無くそうだったから何か思考を挟む余地も無かった

ボランチの宮崎徹も声を掛けて来た

「おい、何ぼんやりしてるんだ、おれたちの反撃はまだ始まったばかりだぜ」

「ああそうだったな」

おれは再び広大なフィールドへと視線を戻した

「なんとしてももう一点取って、それで逆転だ、そしておれたち『日暮里ファイヤーブラザーズ』が全国大会への切符を手にするんだ」

だが次の瞬間、無情にも相手選手の放ったシュートが自軍のゴールネットに突き刺さっていた

「な………なんだって」

試合はとっくに始まっていたのだ

下らない会話をしている最中にも時は確実に経過していたのだった

山本辰夫と宮崎徹は芝生に膝を就き悔しがった

キーパーの河村俊助が遠くで何かを叫んでいるのが見えた

口がぱくぱくと酸欠の金魚みたいに動いていた

何を言いたいのかは大体、見当がついた

「何やってんだ、おめーらバカか! とっとと戻って来いよ!」

悔しいはみんな一緒だ

「………あと何分ある?」

おれはボランチの宮崎徹に問い掛けた

宮崎徹は言った

「ロス・タイムも含めてあと三分ってところか」

そこへスモールフォワードの島村吾郎が駆け寄って来た

「こっちにパスを回してくれ、おれの足ならまだ間に合う」

開始のホイッスルと同時に島村吾郎は走った

こんなに無我夢中で走ったことは今までもこれからもけして無いと思った

島村吾郎の華麗なドリブルは味方だけでなく敵すらも見惚れた

このボールだけは絶対、次に繋げるんだと島村吾郎は思った

「プイーッ」

そこで試合終了

ロスタイムは三十秒も無かった

島村吾郎はおれたちに詰め寄って来て言った

「おい全然、時間ねえじゃねーか!」

島村吾郎は完全にキレていておれの胸倉を掴むと恫喝するようにそう叫んだ


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