防空壕にて


「わたしのフルーチェを返せ!」

その怒号が防空壕の中に響き渡った

「んあにを言っとるんじゃこの子わあ!」

おばあちゃんが呆れた

「黙れ偽おばあちゃんめ!」

わたしにはわかった

あんたなんか本物のおばあちゃんじゃない

隠したって無駄

わたしは既に見抜いた

わたしは遥か遠い未来からやって来た

「ここは一体、何処なんだ?」

時代は太平洋戦争の真っ只中

「わたしのフルーチェを返せ!」

ずっと遠い未来にいる筈の弟に向かって叫んだ

この世界ではまだ精子にさえなっていないのか?

わたしが学校から帰って来て冷蔵庫を開け取っておいたフルーチェを食べようと思ったら

無い

テーブルの上の空の容器と匙

あのやろう

わたしの怒りの鉄拳が今すぐ炸裂してやろうか?

その時、電話が鳴った

「もしもしいっ」

わたしはその相手と話しをしていた筈なのに

気付いたら………ここは一体、何処なんだ?

そしてお前らは誰なんだ?

防空壕の穴の中

まじ笑える

アメリカとまじゲンカ!

何かの冗談ではないようだな

空を切り裂くようにして飛び回る戦闘機の群れ

「………」

あんたら何もわかってないようだから教えてあげるけどさ

戦争とかほんとまじで下らないから

竹槍、握り締めてる場合じゃないから

わたしはあんたらの知らない世界からやって来たんだけどさ

これから先、ポテトを薄く輪切りにして揚げたお菓子を「うめーうめー」とか言って食べる時代が到来するから

何もかもが無意味なら

笑った方が遥かにましだとは思わないか?


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