闇
闇の中から
わたしを呼んでいる
「こっちへこいよ」
と
優しい声で
今行く
それだけ言って
そしてわたしはそちらへ足を踏み入れようとした
躊躇った
もう二度とここへ戻って来れないような気がして
闇の中から
再びわたしを呼ぶ声
「こっちへこいよ」
「何か持って行こうか?」
わたしは尋ねた
「何も要らない」
ただわたしだけがそのままやって来ればいいと
「でもさ、思い出ぐらいは持参した方がいいんじゃない?」
「お前がそうしたいならそうすればいい」
もう時間稼ぎは通用しなかった
あのさあ
さてこのあと何を言うべきか?
「………そっちの天気はどう?」
闇は言う
「何も見えない」
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