第3話 特別があったから特別になるとはならないわけで

 高身長イケメン。これはもうモテるしかないだろう。槙島紫水もそういう青年だった。君、モデルとかしたほうが世のためだと思うよ? と思った。言わなかった俺は偉い。

 そしてなによりも、槙島の1番のポイントは眼鏡じゃないだろうか! と俺は力強く言いたい。眼鏡男子は良いものである。無くてもイケメンはいいものだが。槙島が人気があるのはなにも外見だけではなかった。素直であるし、覚えも早い、礼儀もしっかりしていたのは上にも女性社員にも印象がいい。あと持ち上げるのがうまい。男性社員がこの手で掌握されていくのを俺はリアルに見ていた。うちの社員はもしかして社長並みにちょろいのだろうかと多少悩んだくらいだ。

 槙島が入ったことで、さらにうまく回り始めた業務に不満などない。定時に帰宅できる、素晴らしいことだと思う。サービス残業といって深夜をまたぐなんてブラックは早く滅びろ。

 槙島は爽やかか、と言われるとそうでもない。プライベートとなると半々の確率で付き合いは悪いと言えよう。時折面倒そうにネクタイをいじりながら溜息をついていることもある。なんとなく、そんな部分が気になって眺めていることがあったわけだが、そこである特殊なことが! とはならない。俺が部下を見ているのは業務の一環でもあるし、なにかしらあるなら尋ねることもあるし、相談や愚痴にも付き合おう。しかし、恋愛相談は断る。きっぱりすっぱり断る。経験のないものをどう解決しろというのか。あとゲイであることは家族しか知らない。家族にも知らせる気はなかったが、空気が読めない姉のおかげで爆笑の渦にて暴露された。いいのか悪いのかは分からない。兄貴がいるので家的には何ら問題はなかったのかもしれない。ただ兄嫁さんの気遣った視線が痛かった。

 まぁそんな槙島に手を貸しながら愚痴を聞いたりちょっとした笑い話をしたり、そんなごくありふれた触れ合いを他の部下と変わらずしていた。もし好きだなと自覚した瞬間があったなら、それは多分、不機嫌に溜息を一つはいて立ち上がった彼が空になった紙コップを取り上げて「捨てときます」と不機嫌なまま言った時だろうか。取り繕わなかったその顔が、雰囲気がいいなぁと思った瞬間だったかもしれない。

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