シチュエーション大喜利参加作品

バルバルさん

とんでもない転校生がやって来た。どんな奴?

 「俺は、爺さんの時代みたいに、大地に立った生活をしたいんです。そのために、この大学の学科を志望しました」


 そう、大学の面接で語った移転校生がいた。なんとも、トンデモな大口をたたく奴が来たものだと、その時は笑ってしまったが。

 その生徒の目の、輝きというか、ぎらつきを見て、面白そうだと入学させてみた。

 今思えば、それが私の大学教授としてのキャリアで、一番の功績だろう。


◇ 


 2XXX年代。人類が希ガスから発明した夢のエネルギー源、フォロリウムによってエネルギー革命が起こった。

 だが、人類は知らなかった。フォロリウムを使用し続けると、地中で化学反応を起こし、その土地に強酸性と腐食性を持った汚染物質を生み出すということを。

 しばらくして、大地はフォロリウムによって汚染されて住めなくなった。

 そして何の因果か、フォロリウムによって浮かぶ、人工の空中都市が、人類の居住区となって久しいくなった時代。様々なものが、空中を飛び、ある意味では便利な時代となった。

 学校も、一か所にとどまらず、フォロリウムによって空中を移動する、移転校と呼ばれるものができ、中学生や高校生などという呼び名のように、移転校生というワードが生まれた。

 様々な建物が空中を飛ぶ、ある意味で便利な。そして、フォロリウムが枯渇するという事、即ちそれが、人類の滅びという、薄氷の上で生活しているような時代。

 それでも、子供は生まれ、次世代の新しい可能性が生まれていく。

 これは、そんな新しい可能性の一つの話。


 私は大学で、生徒を指導するかたわら、フォロリウムが地中でどのように有害物質となり、土壌を汚染するのかという研究をしている。

 この研究というのが中々の曲者で。我々は空中で生活しているから。そもそも、土壌というものが手に入りにくいのだ。

 土壌を採取するには、汚染を免れている高い山に行き、そこで採取するほかない。だが、すでに「地面」に立つということが禁忌されるようになって久しく、汚染が少ない山とはいえ、そう言った仕事をしてくれる人がとても少ない。

 土壌を扱いなれている私でさえ、正直、山に足をつけるときはゾッとするのだから仕方がないのだが。

 私の研究を進めるには、必要な量の土壌を採取してくれる人間。それが必要だった。

 ある年の受験シーズンの事。私は大学に入学する移転校生の集団面接をしていた。

 その中にいたのだ。「大地に足をつけたい」なんて言う、トンデモな移転校生が。

 その言葉を聞いた、面接のほかの生徒は驚いていたし、面接していた教授たちも、吹き出す者、ギョッとする者と、私を含め肯定的な反応は少なかった。

 だが、私はこれをチャンスかもしれないとも思った。土壌採取に、役立ってくれるのではと。

 その生徒、南原隆二なんばらりゅうじは、成績は成績は中の下、素行は悪くない移転校生だった。「大地に足をつけたい」と言って憚らない一点を除けば。

 正直、大学に入れるギリギリの学力だったが、私の押しもあって入学にこぎつけた。

 大学でゼミに入るまでの3年の間に、私は隆二と何度か話をした。

 彼は、まだ大地に我々が住んでいた世代の資料を子供の頃に読み、そこから大地に取りつかれたらしい。

 大地に咲く、桜や野の花。そういった、今では資料でしか見られないものを、自分の代で、それが無理なら、次の代で再現したいという。

 なんとも青く、なんとも若い意見だと思った。そして、まぶしいとも。

 私がフォロリウムを研究する理由は、それが金になるからというのが大きいから。

 人類の未来がかかった研究だ。それだけ、期待の投資というのがある。それを狙って、この研究に従事している面も、私にはある。

 結局、お金だ。だが、彼の語る夢に、私の欲望に満ちた研究が役立つとなると……何か、感じるものがあった。

 そして、4年目。彼が、私のゼミに入った後の事。

 隆二は、汚染されていない高山の一つ。富士山の山頂に降り立った。


 「すごい、これが大地なんだ……」


 他のゼミ生がびくびくしながら立ってるのとは対照的に、目を細め、大地を踏みしめていた彼は、とても印象に残った。

 そして、彼は何と素手で、大地に触った。

 私は慌て止めたが遅く、汚染が少ないとはいえ腐食性を持った土に触れたことで、彼の手の皮膚がボロボロになってしまった。

 だが、彼は満足そうだった。

 それどころか、初めて土に触れたと、痛みをこらえながらも笑って喜んでいた。

 それを見て思ったね。

 ああ、とんでもな移転校生がやって来たとんでもない転校生がやってきたと。


 さて、隆二は私のゼミに、院まで在籍し、私が発明した「大地再生プラント」で浄化した「地上の」土地で生活する実験。その被験者となったり、地上での実験に従事したり……様々な、大地についての研究に携わている。

 彼が大量に土壌を採取してくれたおかげで、私の研究は捗り、沢山の成果と、お金が手に入った。

 手に入ったお金は結構な額で、しばらくは贅沢に暮らしても不自由しないだろう。

 そして、そのお金の一部は……彼への、投資にも使ってみた。

 彼の、馬鹿一直線の大地へのあこがれに、私も、少し心動かされたというべきなのか。

 まあ、一つ言えることは。

 彼ほどの、大地バカを発掘したことを、私は誇りに思っているということだ。

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