第135話 「赤ちゃんは泣くのが仕事」が正解
平成二十六年、神様の町にいるあいだ、警察署での誘拐事件の取り調べのために何度か帰郷した。
刑事さんは、必死に和解を勧める。
「私たちはただの兵隊なので、裁判所の判断がおかしいなと思っていても、裁判所から命じられたら、ご主人を逮捕しなきゃいけないんです」
「人身保護が最高裁で負けて、それでも抵抗したら、どうなりますか」
「まず、お父さんを捕まえる。次に娘さんを守るおじいちゃんとおばあちゃんを捕まえて、一人残った娘さんを保護することになります。だから、何とか和解して、終わらせてほしいんです」
取り調べのあと、弁護士事務所で報告した。
「もうすぐ一年になるから、そろそろ調書を巻きたいのかもしれませんね。
あっ、調書を巻くって言うのは、検察庁へ送るために、書類をまとめることです」
聞き覚えた警察用語を使いたかったのだろうか。
知り合いの刑事に確認したら、誘拐事件を一年放置することはなく、証拠隠滅されないうちに迅速に動くとのこと。最終的に、年内に書類送検して、担当検事が異動になる翌年三月に不起訴処分で終わった。
上下関係が厳しい検察官は、警察よりもさらに公務員的で、非常識さは裁判所と肩を並べる。
検察庁では、三十代の女性検察官が、四十過ぎの書記官に発言を文字入力させながら、私の話を聴いていく。
泣いていた娘を連れ帰ったことについて検察官の一言。
「子供は泣くのが普通です!」
驚いて、彼女の左手薬指の指輪を確認した。この若い検察官は、いつか子育てをした時、泣く子に激昂して、さらに子供を泣かせそうだ。
泣いている子供を、そこらで頻繁に見かけるだろうか。
「赤ちゃんは泣くのが仕事」が正解だと思う。ミルクがほしくて、おむつが濡れて、不快を言葉で訴えられない赤ん坊は、よく泣く。「泣くのが仕事」と思っていれば、荒立つ親の感情も少しは和らぐだろう。
裁判所と検察庁は、犯罪者以外は関わりにならないほうがいい。彼らの思考に影響されて、こちらまで精神的に病んでいきかねない。困って、弁護士事務所に電話したら、暇そうに事務所にいて、「がんばってください」の一言だった。誘拐事件の弁護料四十万を返してほしいと思う。
さて、次はいよいよ最終話。
神様の町から戻ったあとの裁判所での話です。
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